龍神と御姫滝 「南紀土俗資料」
2025.3
紀州日高川の上流にある寒川村寒川(和歌山県日高郡日高川町寒川)の新行谷に、御姫滝と言うのがあった。いつの頃であったか、この滝の一町(約109m)ばかり上に老婆と年頃の娘とが住んでいた。
この娘は、夜な夜な母の眠るをうかがっては、ひそかに外出して、暁に至って帰ってきた。しかもその穿いた草履がいつも濡れていて、破れていた。母はこれを怪んで、そのわけを聞いたが、娘は固く口を閉ざして答えなかった。
それで母親は一計を案じて、ひそかに長い絲を紡ぎ、ある夜、娘の油断したすきに乗じて、その糸を娘の帯に結びつけておいた。
翌朝になっても、娘が戻って来ないので、母はこの絲をたどって娘の行方を訪ねた
すると、恐ろしいことに、絲の端が、あの滝壷に入っていた。驚き悲しんだが、どうしようもなく、「せめては、今一度 娘の姿を見せてください」と龍神にいのった。
すると山や谷が一時に鳴動して、龍神が紺碧に滝壷より現れたが、一瞬で沈んだ。そして、二度とその姿を見せなかった。
それで、その滝を御姫滝と名づけられた、と。
以上、「南紀土俗資料」土俗編、神婚伝説 より
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