江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

白姥が嶽の怪猫 「土佐風俗と伝説」

2023-02-16 00:21:50 | 化け猫

白姥が嶽の怪猫  

白姥ヶ岳の怪猫

                                                       2023.2

今は昔、宝暦(1751~1764年)の頃、長岡郡本山郷伊勢川村(高知県長岡郡本山町)という所に、小平と言うものがいた。

自宅より二里半(約10km)も離れた白姥ヶ岳という高山幽谷の中に、ぬだ待ち(獣類の来るのを待ち、これを銃殺する猟法)に行った。
常日頃行き慣れている打ち場に、獲物待ちの場所を構えようと思った。
朝から次の朝まで、深山中に一夜を明かそう、と握り飯、茶瓶を携えていった。
打ち場の下から五町(一チョウは、109m位。545m位)位の所に、形ばかりのとや(樹木を組み木葉を蓋ひて雨露を凌ぐ所)を構え、ここで夕食を食べようと、用意をはじめた。
そのとき、年齢十五六の可愛いらしい少女出て来た。

「叔父さん、変った所に御座んした。」と言った。
ふと見れば、その姿は、隣村の森郷白髪村に住んでいる姪のお六、そのままであった。

小平はこれを見て、さて化け物が出てきたな、只の一打でしとめようと思った。
しかし、顔も声もあまりにお六に似ているので、声をかけ、「こんな夜中に、少女の身で人里遠いこの深山へ、どんな急用があって来たのかい?くわしく訳を言ってみろ。」
と責めかけた。
お六は、いつもと変らぬ笑顔で、
「ここは白蛯ケ岳というて、最も恐ろしい山の中です。

いかに世渡の業とは言いながら、罪もなき畜類を打ち殺し、罪を造るは無慈悲なことです。

今後は何卒殺生を止め、他の仕事に替らるる様、御諌(いさ)め申したく、参りました。」と。

 小平は答えて、

「我は生来の猟師ならば仕方がない。その方は少女といい夜中といい大胆至極の事だ。しかし、最早(もはや)夜中を過ぎたので、暁までも間もあるまい。この小屋で仮寝して、一夜を明かし、明日の朝早く村へ帰れ。」と言った。
その夜はそのまま、そこに打ち臥したが、小平は少しも油断なく注意していた。しかし、これは不思議なことに、宵の中は少女と見えたその姿が、丑の刻(午前二時)を過ぎた頃より、顔かたちが次第に変じて来て、目は大きくなり異様の光を放ち、口は広がって耳元まで裂け、身長も延びて七尺以上となった。

それで、小平は驚ろき、いで 化物の正体現わさせてみようと、そっと山刀を引抜き、拳も通れとばかりに、脇下を差し透した。

すると、怪物はたちまち正体を現し、七尺有りの大猫となった。

物凄い悲鳴をあげ、山奥指して逃げ入った後、その足跡、姿を見つけることが出来なかった。
昔より、白姥ヶ岳には怪獣が住むと言われるが、その一つであったろう、と伝えられた。

 「土佐風俗と伝説」より

 



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