寒川瀧の大蛇 「南紀土俗資料」
2025.3
寒川の名門寒川氏の祖先の宇三郎(二十八歳)と言う者が、ある日 川狩に出かけた。
その寒川滝のほとりに到るや、一尺余りの小蛇が現れて、突如、宇三郎の足指を呑もうとした。宇三郎は、元より豪放磊落(ごうほうらいらく)な質(たち)であったので、そんなことぐらいは気にもかけず、とった鮎の腹をさいて、内臓を抜くことに余念もなかった。そうこうする中に、蛇は早や宇三郎の足を呑んでしまった。ここに及んで宇三郎は、「ええ面倒臭い」と小刀を蛇の口中にさし入れつつ、一気に口を切ってやると、小蛇は大音響を発して滝にもぐって行き、宇三郎も引きずられて潜って行った。
瀧の水は真っ赤になった。かたわらで見ていた者共はあわてて腰を抜かした。しかし竹蔵とか言う者がすぐに飛び込み、水に潜って宇三郎を引揚げた。けれども、早やこときれていて、いかんともする事が出来なかった。
その時滝のどこからか「三国一の宝を奪った」と呼ぶように聞えたと言う。
以上、「南紀土俗資料」土俗編、水界神話的伝説 より
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