

大型トラウトの針かかり考
カラフトマス・サケ釣りはじめ、海釣りなど食べるための魚を釣る場合には、絶対に逃げられないように思い切りしっかり喰わせて、できれば食道・胃袋あたりにまで深く針が刺されば完璧だ。
また、ごついルアー針や毛針を力任せに合わせて、顎や上顎の硬骨を貫通するほどの針かかりにすればラインが切れないかぎりは確実に魚を確保できる。
30年ほど前までは、私もそういった釣りが主体で、釣った魚をリリースするといった考えは全くなかった。
当時、渓流で釣れる魚は、これほどまずいオショロコマでさえ、常に貴重な家庭の食料であったのだ。
私の子供3人は、渓流魚のフライや天ぷら、ときには焼き魚を、たらふく食べさせられて育ったが、旬のヤマベ以外は一律まずい魚でありオショロコマは特に不評であった。
このように、かっては、釣りは魚を釣り上げる限りない快感と、それを食べるという実益とが、常に2本立てで一緒になっていたのだ。
その後、日本は信じられないほど豊かになって、流通も便利になって、釣り好きのお父さんが苦労して釣ってきた渓流魚が日常の食卓を飾っていた時代は完全に終わった。
スーパーに安くておいしい魚が山積している現在、川で魚が沢山釣れたからと、おすそわけしても心から喜んでくれる人は稀だと思う。
ゲットした渓流魚を食べられるように処理するのは、現代ではかなり面倒くさい作業になってしまったので、かみさんにそれをゆだねると逆鱗にふれることになる。
キャッチアンドリリース。
なんとなく、渓流魚保護、自然愛護 etc、と関連する微妙な錯覚をともなう変なワードだ。

近年、釣った魚をリリースする人たちの中には、前述の魚処理の面倒くささのためにリリースする人もかなり多いのではなかろうか。



要するに魚が欲しいわけではなくて、魚を釣る快感だけを得たいのである。

もしかすると運がよければリリースした魚は来年また釣れてくれるかも知れない。
大きな魚なら、写真やビデオをとってドヤ顔ですごいだろうと鼻の穴を大きくふくらませて、他人に自慢したくなるのが釣り人というものだ。
私の場合は、そういった理由のほかに、渓流魚の分布や生態、外観的特徴の写真記録、生息環境調査などに異常な興味を持っているので毎年釣り上げる魚の数はハンパではないが、その多くは丁寧にリリースしています。
リリースといっても、その魚が一年後にもまた釣れてくるような、最後まで魚の命を損なわないようなリリースは実はかなり難しいと実感してきました。
リリースされて元気よく泳いでいったはずの魚が、数時間後川を上がろうとすると川底に仰向けに沈んでいるのを発見するとかなりこたえます。
針を呑まれないまでも、針がエラや血管をかすめて出血をきたすと大抵は致命傷になります。
道糸を常に張った状態でかすかな最初のアタリを逃さず、超素早く合わせて釣り針を呑まれないよう細心の注意を払う必要がある。
できれば道糸の動きが止まった瞬間に合わせるように心掛け、アタリもぐんぐんの最初のグで合わせるようにして、要するに超早合わせに徹しています。
そうするとこんな針がかりにすることが可能です。この程度なら致命傷にはならない。




ぐん、ぐん、ぐん といったしっかりしたアタリで合わせるとまずは手遅れで、普通は呑まれており、最後の手段の糸切りリリースを考慮しなければなりませんが、これにも色々問題はあります。


魚をよく視認して、ヒットする瞬間に合わせる Ultra sight fishing も浅い針かかりのためには有用ですが、そのような機会は実際にはそう多くはない。

そのため、私は釣り落としがとても多いのが実状です。

魚が多い時にはバーブレスの針を使うこともありますが、これが一番魚のダメージが少ないと思います。
ただ、確保までに空中で魚が激しく暴れるとかなりの確率で落っこちてしまうので、これが難点です。

針はずしは、小型の医療用彎曲コッヘルを使います。
これは正確な針はずしのためだけでなく、自分の爪を保護するためにも大切だとおもいます。
ところで、大型トラウトを釣る場合、これまで何度か述べてきましたように、私の釣り方では、釣り針は硬い顎骨や頭骨を貫通することは出来ません。
骨の上の軟部組織を、浅くすくうような針かかりになります。

そのため、魚のパワーを弱らせるために長時間のファイトに持ち込むと、大抵最後は身切れで針がはずれてしまいます。


従って、短期決戦、力任せの格闘技みたいな壮絶な釣りになるのです。


このほか私は魚のダメージを少なくして、確実に確保するための特殊な釣り技を使いますが、ここでは触れないでおこうとおもいます。
最後に、誤って返しのある針を自分の指などにぶっすり刺してしまう可能性を考慮して常に小型ラジオペンチを携行すると無難かとおもいます。
渓流釣りに対する考えや趣向は釣り人それぞれで実に多彩・多様なものがあると思いますが、以上が私の渓流釣りのスタンスと針がかりに関する現在の考えです。
リリース。



