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吹き飛んだ将来の飯のタネ 東芝・日立は戦略見直しへ

2011年03月29日 19時53分00秒 | Weblog
Close-Up Enterprise 【第50回】
                   2011年3月29日 週刊ダイヤモンド編集部

福島第1原子力発電所の危機により、原発を設計し造ってきた東芝や日立製作所などのメーカーは、少なくともこの先5年の経営計画を見直す必要がある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男、小島健志、柴田むつみ)

「われわれのエンジニアや研究者たちをもっと使ってくれれば、もっと早くに事態を収束できたはずだ。東京電力の地震後の対応にはがっかりだ」──。

 ある東芝首脳はこう吐き捨てた。危機的状況から脱せない福島第1原子力発電所の状況にいらだちを隠せない。

 加えて「日立製作所の設計した4号機についても、うちのエンジニアが対応できるように考えていた」(同首脳)。日立は茨城県の日立事業所が被災している。その対応に追われるだろうと、東芝は配慮していたのだ。メーカー側は企業の枠を超えて、福島第1原発の危機に対応する準備を整えていた。

 しかし、次々と起こる危機的状況に東電と政府は混乱していた。せっかくの準備をよそに、なかなか東電や政府から支援要請の声がかからない。それでいて状況は悪くなるばかり。前出の東芝首脳がいらだつのも無理もない。

 両メーカーは、日本の原発の歴史に深くかかわってきた。日々の点検や管理などで、実際に現場で手を動かすのはメーカーである。ゆえに、原発構造に関する知見も、当然ながら蓄えている。

「東電に原子炉に関する知見がないとはいわない。でも燃料や炉心、格納容器など、それこそなにからなにまでいちばんよく知っているのは実際に図面を描いたエンジニアでしょう」。メーカー側は口を揃える。

メーカーが福島の平穏を切望する最大の理由

 メーカー側には、福島の状況が一刻も早く落ち着いてほしいという自分たちなりの事情もあった。原子力は二酸化炭素を出さないエネルギー源として注目を浴びていた。また、爆発的に増える新興国でのエネルギー需要を賄うための救世主として、建設ラッシュが始まる、“原子力ルネサンス”の本格的な幕開けを目の前にしていた。

 地震大国の日本で、世界で最も厳しいといわれる耐震基準をクリアして原子炉を開発、設計してきた東芝や日立の技術力は、世界から求められていた。メーカーもそれを売りに世界中の原発需要でひと儲けしようと、そろばんを弾いていたところだったのだ。

 東芝は2006年2月に米大手原発プラントメーカーのウェスチングハウスを54億ドル(当時の為替レートで約6210億円)もの巨費を投じて買収。さらに、いちプラントメーカーにとどまらず、燃料調達なども手がける“原子力の総合企業”に生まれ変わるべく舵を切り、07年8月にはカザフスタンでウラン権益を確保するなど、事業構造の転換を急いできた。

 中期経営計画では15年度までに世界で39基を受注し、原子力事業だけで売上高1兆円という目標を掲げている。その目標も13年度に達成可能で、10年度は約6000億円の原子力事業での売り上げを見込んでいる。

 利益面での貢献も大きい。東芝のもう一つの主力事業であるLSIなどの半導体事業が、価格変動と需給バランスによって浮き沈みが激しいのとは対照的に、毎年100億~150億円の利益を生み出す“読める”事業だったのだ。

 ウェスチングハウスの投資回収は当初17年間だったが12~13年で回収可能と見ていた。

 日立も同じくバラ色の未来を描いていた。30年までに世界で38基の原発新設需要を取り込み、09年度に2100億円だった原発売上高を20年度には3800億円まで引き上げる目標を立てていた。

 震災4日前の3月7日には、不採算事業だったハードディスクドライブ事業を米ウエスタンデジタルに売却し、原発をはじめとするインフラ事業に集中すると発表したばかりだった。

将来の飯のタネ”である原子力事業計画の見直し

 しかし、今回の福島原発の影響で、こうした事業計画はすべて見直しを迫られることになる。

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 国内で原発の新設計画を進めることなど不可能に近い。すでに東電が進めていた青森県の東通原発1号機、2号機の新設計画はストップする見通しだ。そのほかも、ほぼすべてが凍結されるだろう。

 下表にまとめたのは海外の原発開発計画の一部だ。総電力量の約75%を原子力で賄う原発大国フランスは従来どおり新設計画を進めると宣言しているが、多くの国で計画が遅れるか、見直される可能性が高い。

 ある外資系証券アナリストは「東芝や日立が今までのように原子力事業から利益を積み上げていくことはかなり難しい」と予想する。今後を楽観できる要素は一つもない。

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 こうした急ブレーキで、東芝はウェスチングハウスを買収した際に発生したのれん代の減損処理を迫られる可能性がある。54億ドルもの資金を投じたが、その価値は目減りしている。

 だが東芝首脳は「原子力事業の将来のキャッシュフローが見えない段階で、今すぐに減損処理を迫られることはない」と断言する。

 また別の東芝首脳も、今回の震災で世界の原発新設計画がすべて止まることはないと話す。依然として現在稼働している原発の燃料需要やメンテナンス需要が見込め、今までと同様に売上高と利益は積み上がっていくはずだと強気の見通しを示している。

 福島第1原発の危機的状況を前に、あまりに楽観的な将来見通しのように思えるが、その背景には、今回の事故は東電と政府の後手に回った対応が原因であり、東芝と日立は“被害者”だという思いがあるからだろう。

 今、東芝と日立の原子力事業のエンジニアたちは、国家の危機に対し被曝覚悟で福島で奮闘している。一方、被災した自社の拠点の立て直しにも追われている。そしてそのうえで、“将来の飯のタネ”である原子力事業計画の見直しという、3重の試練に直面しているのである。

http://diamond.jp/articles/-/11636