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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 406

2025-02-17 15:44:46 | 短歌の鑑賞

 2025年度版 渡辺松男研究48(2017年4月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)
     【睫はうごく】P160~
       参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
         レポーター:渡部 慧子     司会と記録:鹿取 未放          


406 秋晴れのつづく天気図君と見て嘴つつきあうごとき快

              (レポート)
 「嘴つつきあうごとき快」がなんとも若々しい。口づけを戯れのように繰り返しているのかもしれない。秋晴れのつづく天気図をみながら気分は鳥。(慧子)


              (当日発言)
★「嘴つつきあうごとき快」の表現が面白いですね。なんかじゃれ合っているというか。(T・S)
★そうですね、前の歌(音楽に満つる銀河と君はいうここにコーヒーカップがふたつ)よりも小さいところに入ってきていて、「いいかげんにせい!」という気もするけど。天気図を見ながら次の休日はあの山に登ろうか、とか言っているんでしょうね。でも壮大な歌ばかり続いてもダメだから、ここに小さなものを入れるのもテクニック、連作の妙かもしれませんね。(鹿取)

 

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 405

2025-02-16 11:32:17 | 短歌の鑑賞

 2025年度版 渡辺松男研究48(2017年4月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)
     【睫はうごく】P160~
      参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
         レポーター:渡部 慧子     司会と記録:鹿取 未放          


 405 音楽に満つる銀河と君はいうここにコーヒーカップがふたつ

              (レポート)
 どこかのお気に入り空間でよい音楽につつまれていよう。二人の今という現実が「音楽に満つる銀河」と詩的にとらえられる。さらに「ふたつ」とはつくづくよい数であり、又、よい和語だ。ゆたかな空間に二人のよい時が流れる。(慧子)


              (当日発言)
★下句、唐突に画面が変わりますが、鮮やかな感じです。(A・Y)
★美しい歌ですね。この歌は好きな歌で哲学的な感じがします。「音楽に満つる銀河」って世界は音楽にみちみちているっていう、それは現実に演奏された音楽ということではなくて、小鳥の声も自然 界の音も、いろんなものをさして「音楽」って言っているんだと思います。「世界」ではなく「銀河」と言っているので、地球の豊かな音楽と、それを包んで無限のように広がる銀河、そこは無音なのか、音があるのか私は知らないのですが、哲学的なある調和の状態を言っているのでしょうか。もちろ ん、喫茶店でも音楽は流れているのでしょうけど。私は勝手に、明るい庭に向いた書斎で向き合ってコーヒーを飲んでいる場面を想像しました。まあ「君」が「音楽に満つる銀河」と感じるのはふたりがここちよい関係にあるからで、肯定感がいいですね。(鹿取)
                             

 

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 404

2025-02-15 10:50:06 | 短歌の鑑賞

 2025年度版 渡辺松男研究48(2017年4月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)
     【睫はうごく】P160~
      参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
              レポーター:渡部 慧子     司会と記録:鹿取 未放          


 404 はろばろと雪渓は見えまぶしすぎるひかりのなかに睫はうごく

              (レポート)
 詠いおこしの「はろばろ」から全体の流れがきれいで作者の気分の壮大さと結句の細やかさまで表現され、その間のつなぎ「まぶしすぎるひかり」もよく効いている。とおく見えている雪渓から「睫はうごく」の結句まで景がみごとにひきしぼられ、ひかりの美しさもよく感じられる。(慧子)


              (当日発言)
★雪渓がきれいですね、それと睫っていわれたときにやっぱり黒々としたきれいな睫が浮かんで、相手も雪渓を眺めているのでしょうか、睫を揃えて瞬きをする、美しいって書いてないけど清楚で美しい顔が浮かびます。遠景と近景、雪渓の白と睫の黒、そしてまぶしすぎるひかり、コントラストが美しいですね。(鹿取)
★この「睫はうごく」は、歌からすると本人だと思うのですが。(慧子)
★遠い雪渓を女性は見ている、そして作者はその女性の睫を見ている。(T・S)
★そうですね、雪渓を見ている主体は〈われ〉、睫を見ているのも〈われ〉。この一連の題はこの歌からとられた「睫はうごく」。この「睫はうごく」30首で松男さんは1995年に「歌壇賞」を受賞されています。だから、この辺りは作者の思い入れの濃い作品なのでしょうね。(鹿取)


               (後日意見)
 「睫はうごく」一連で歌壇賞を受賞した松男さんが受賞の知らせが届いた時のことをことばで、次のように書いている。


      …つまり受賞の知らせです。「しかし」待てよ、きっと誰かの悪戯だろう。

  そうだ、応募歌の内容に僻んだ妻に違いない。…

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 403

2025-02-14 15:45:57 | 短歌の鑑賞

 2025年度版 渡辺松男研究48(2017年4月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)
     【睫はうごく】P160~
      参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
           レポーター:渡部 慧子     司会と記録:鹿取 未放          


403 あゆみくる君をひかりはあばくなよ夏帽深くまなじりはある

             (レポート)
 夏帽子の君があゆんでくる。「夏帽深くまなじりはある」という美しい描写に対して上句の命令形がいい。夏の強い光りに照射されて傷つきはしないかと相手を思うこころ。(慧子)


             (当日発言)                         
★まなじりって強い感じを受けますが。上句がいいですね。(T・S)
★「夏の強い光りに照射されて傷つきはしないか」というのはちょっと違って、秘めた恋だから夏帽子を目深に被って君は逢いに来るんですよね。だからひかりにあばくなよと言っている。まなじりは、いかにもキッと強そうなイメージですが恋を遂げたいっていう決意がにじんでいるのかもしれませんね。もちろん、秘めた恋というのは歌の中の設定であって、現実の作者がそういう恋をしているかどうかは関係ありません。(鹿取)                             

 

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 402

2025-02-13 11:12:34 | 短歌の鑑賞

 2025年度版 渡辺松男研究48(2017年4月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)
     【睫はうごく】P160~
      参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
           レポーター:渡部 慧子     司会と記録:鹿取 未放          


402 ゆうぐれはいっぽんの樹へ向くこころ樹というは霧のなかなる耳

              (レポート)
 霧の中では、あらゆるものの細部が没して、作者にとって、たとえば樹は本質的な存在になるのだろう。つまり作者の心に寄り添って耳を傾け、聴くものとなる。「いっぽんの樹」としていることから特定の樹であるし、特定の一人を心に置いているのだろう。(慧子)


              (当日発言)
★レポートで解説していただいても、「樹というは霧のなかなる耳」というのが理解できないんですが。(T・S)                              
★具体的にいうと霧が深い時に立っている樹が耳のように浮かび上がって見える、そういうイメージを浮かべると分かりやすいかも。美しいイメージですね。「いっぽんの樹」だから特定していますよね。自分が親しみを覚えるその木が、耳となって自分の心の思いを聞いてくれるのでしょうか。第二歌集『泡宇宙の蛙』では亡きお母さんのことを木に耳となって現れるとか詠っていますが、それはまた全然違う種類の歌ですね。(鹿取)


                (後日意見)
 死後の母も母なれば苦しかるらんやくらくらと木に人の耳でる『泡宇宙の蛙』

 こちらは、死んでも母だから遺してきた子供の声を聴きたいとか、子供のことを知りたい一心で木に耳となって出てくるのだろう。(鹿取) 

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