かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 72

2023-07-07 11:03:00 | 短歌の鑑賞
  2023年版渡辺松男研究⑨(13年10月)
     【からーん】『寒気氾濫』(1997年)33頁~
      参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター 鈴木 良明    司会と記録:鹿取 未放


72 松の葉のふるえこまかき昼さがり手を洗わざる不安にいたり

       (レポート)
 何かをきっかけに手の汚れが気になりだすと、いつまでも手を洗い続けないと気がすまない不潔恐怖症がある。症状に至らないまでも、誰でもこれに近い気分になることはある。それは心のとらわれであり、心の影を掃いているようなものであるから、行為を繰り返せば繰り返すほど、現実から遊離して常に不全感にとらわれる。この不全感を実感させる上句は、実に巧みだ。松の葉は、わずかな風や光にもいつもちりちりと震えている。その様は、不全感にとらわれた心のふるえのようだ。(鈴木)


          (当日意見)
★普通だと心配な気持ちもありながら何とかやりすごすんだけど。誰でも神経症の症状
 が出る可能性はありますよね。渡辺さんが不潔恐怖症というのではなくて、不全感を
 持っている人なのかな。逆にその不全感があるから渡辺さんの歌はいい歌になってい
 る。これでいいというのがない。どんどん新しいところに出ていく。これで上手いだ
 ろうという人には進歩がない。歌人の中ではこういう資質はすばらしい。「松の葉の
 ふるえこまかき」ってリアルですね。病院か何かに行く時、松の葉があってふるえて
 いたような気がしてくる。きっと体験しているんですよね。(鈴木)
★手水鉢のあたりから庭の松の木を見ているような感じですよね。あの松の長細い葉の
 一本一本が細かく震えているって、言われてみればそのとおりですけど、的確な把握
 ですよね。(鹿取)
★やっぱり見ているんですよね。想像では書けない。(鈴木)

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