かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の191

2019-08-12 17:38:58 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


191 崖上の冬木の影がさかしまに崖下の家へ届こうとする

      (レポート)
 作者はまず崖の上に生えている木を見上げている。季節は冬で、木の陰は長く伸びている。崖の上に生えているので、その木の影はさかさまになって、崖の下にある家へ届こうとしているのだ。(崖の上の木)から(その木の影)そして(崖下の家)へと、作者の視線の動きが巧みに表現されている。作者と木との距離感、崖上から崖下への高低差が、この歌に大きな立体感を持たせている。(岡東)


      (当日意見)
★松男さん、こういう影の歌がたくさんあります。影でなくても、天地が逆さな感
 じで天向かって切られた髪が落ちていくとか。来嶋靖生さんに似た歌があって、
 永田和宏さんの『現代秀歌』に載っていたのですが、ちょっと見つけられません
 でした。(鹿取)
★「届く」じゃなくて「届こうとする」がすごいですね。影って無機物が有機物み
 たいに伸びていく感じで。(A・K)
★アメーバが触手を伸ばすみたいですよね。越境というか、浸食ですか。(鹿取)
★叙景歌とはここでちがったなって感じがする。「届きそうだ」なら私でも言える
 とおもうけど、「届こうとする」がすごい。表現意欲を触発しますね。特別なも
 のは何もないのにね。(A・K)
★A・Kさんの今のお話を聞いてなるほどと思いました。こういうふうに読めば
 この歌が平凡でなくなるのねって。(T・S)
★レポーターが歌に大きな立体感を持たせているって書いていて、いいなと思いま
 した。(慧子)
★さかさまの影って絵画にはたくさんありますね。たとえば東山魁夷の湖があって
 白い馬がそこに映っているとか。でも、この歌は「冬木」だからいいんでしょう
 ね。枝だけになった、そうすると映像がクリヤーな感じになる。(A・K)


     (後日意見)
 鹿取発言中の来嶋靖生の歌は次のもの。
おもむろに階(はし)くだりゆくわが影の幾重にも折れ地上に届く
      『雷』
 また既に鑑賞を終えた歌だが、鹿取発言にあるひかりの髪の歌、影や逆さに落ちていく歌などをあげてみる。
       (鹿取)

   伸びるだけわが影伸びてゆきたれば頭が夕の屋上より落つ
      『泡宇宙の蛙』
   法師蟬づくづくと気が遠くなり いやだわ 天の深みに落ちる
      『寒気氾濫』
花蕎麦のしずもれる日よ天体の外側へ消えゆきしはたれか
真空へそよろそよろと切られたるひかりの髪は落ちてゆくなり

コメント
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