かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の135

2019-02-07 20:18:53 | 短歌の鑑賞
  ブログ用渡辺松男研究2の18(2018年12月実施)
     Ⅲ〈錬金術師〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P93~
     参加者:泉真帆、M・I、岡東和子、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


135 ごんごんと資本回転する怖さ ブレーキのなき父のくちびる

      (レポート)
 ごんごんというオノマトペの勢い、それにともなう強さで詠いおこし、資本をつぎこみ回転させる状態を怖さと上の句で示す。これは社会の状態のようにも思うが、資本主義社会にエネルギーをもって生きる父の行動力、又事業への旺盛な意欲などを指していよう。ところで、くちびるは皮膚の中で質感が他と少し異なっていて、人間の内部と繋がる微妙な境。その微妙さにもかかわらず、ブレーキがないという。上の句の状態に対して、休息を必要とせず、畏れを知らないような父の物言いなのだろう。(慧子)


      (当日意見)
★唇の質感が違うというところ、よく読んでいらっしゃると思いました。しかし、質感の違いとい
 うよりも父親というのは他動的にブレーキが無いようにされているというか、外的なものによっ
 てそうされているのかなと。漢字4つを使って資本回転に目が行くように作られている。そんな
 ふうに現代の恐ろしさを詠まれたのかなと思いました。(A・K)
★他動的というところまでは読めなかったのですが、なるほどね。(鹿取)
★父のくちびるは、資本主義のそのことしかしゃべっていない。(真帆)
★資本主義がごんごんというものすごい音を立てながら回り続けている、だから父の唇もブレーキ
 が無い。(岡東)
★資本主義がいったん回り始めると後戻りはできない、前へ前へ行くしかない。そういうことをブ
 レーキがきかないって言っているのだと思います。(T・S)
★このお父さんがどれほど実像に近いのか遠いのかわかりませんが、歌集の中の造形としては、資
 本主義にあんまり適応できない〈われ〉に比べて、このお父さんは比較的適応している。中小企
 業の工場主で、商工会議所の会長で、でも、内面は自分と同じようにわけのわからないドロドロ
 を抱え持っている。そのお父さんの造形を私はとても魅力的だと思っています。上の句のとどま
 ることを知らない資本主義の怖さというものは松男さんの実感なんだろうなと思います。そして
 A・Kさんは他動的とおっしゃったんだけど、そういう資本主義に組み込まれて生き残るために
 は乗っかっていくしかないお父さん、お父さん自身はそれに疑問を感じているのかいないのかは
 この歌だけではわからないですね。くちびるの肉感的なさまを慧子さんがおっしゃったけど、喋
 り続けている感じですね。工員を叱ったり、お客さんに調子を合わせたり、税理士やお偉いさん
 にはちょっとへいこらしたり、とにかくしゃべり続けて、精力的に仕事をこなしているお父さん。
 そんなお父さんの象徴として唇はあると思っていましたが、皆さんのご意見もそれぞれ面白いと
 思いました。(鹿取)


コメント
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