だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

にぎやかな静寂

2007-07-11 03:04:15 | Weblog

 先週末はNPO法人奥矢作森林塾(岐阜県恵那市串原)に学生といっしょに訪問した。炭焼き、人工林の間伐、原生林などの体験をするエコツアーのプログラムである。

 奥矢作森林塾ができるにあたっては、2000年の恵南豪雨災害(名古屋では東海豪雨と呼ぶ)がきっかけだった。手入れの遅れた人工林の谷間があちこちで崩れて土石流が発生し、たいへんな水害となった。これを期に、人々は山が荒れていることに気づき、これをなんとかしなくては、と思うようになった。水源の山の手入れをすすめ、下流の人々に豊かな水を確保することで、上流と下流のつながりを再生しようという思いを形にするために奥矢作森林塾は設立された。
 矢作ダムのダム湖の湖畔にある森林塾には炭窯が作られている。広葉樹で品質の高い炭をつくるだけでなく、間伐した針葉樹、竹、そしてダムに流れ込む流木を炭にして活用しようとするものだ。

 ちょうど炭焼きが終わったところで、窯の中はまだ余熱が残っていた。その窯の中に入らせてもらった。狭い入り口から中に入ると、ほんのりとぬくもりにつつまれる。目が慣れてくると中はけっこう広い。その奥に座り込むと、ほおっと安心できて、何ともいえず気持ちがよい。これが「引きこもり」というものかと思う。かなり長い時間「引きこもり」をした。
 北米のインディアンが行うスウェットロッジの話を思い出した。テントの中に裸になって入る。そこに焼いた石を投げ入れて水をかける。真っ暗なテントの中はサウナのような状態になり汗びっしょりになる。それぞれの歌を歌いながら、魂の再生を祈る神聖な儀式である。
 炭窯から出ると、少しだけ生まれ変わったような気分がした。私が引きこもっている間、黙々と薪割りに汗を流していた学生もいた。彼女らもプチ魂の再生を経験したに違いない。
 炭ができていくようすは煙で把握する。指導をしてくださった杉野さんは、微妙な煙の変化を説明してくださる。いつ焼き上がるかは予測できない。煙に聞け、というわけだ。何事もタイマーでチン、とやることが多い暮らしの中で、自然の時間の流れを感じられることは大切な経験である。

 二日目の午前中は人工林で間伐の体験をした。みんなはじめて目にするチェンソーの迫力に緊張の面持ちである。それでも一人ずつ木を切り倒した。ねらったところにうまく倒れると拍手がわく。気がつけば、樹冠があいて空が明るくなっていた。ほんの2時間ほどの作業だったが、その変化は印象深かった。プロは同じ時間で40~50本を切り倒すと聞いて、なにごとにもプロの力はすごいものだと一同感心した。

 午後は原生林を散策した。段戸山裏谷である。植物と鳥の専門家にいろいろと教わりながら歩くのはとても楽しい。
 足下にはブナやモミなどの木の実がびっしりと落ちている。これらは発芽したとしても、普通は地面には光がよくあたらないため育つことはない。大木が寿命により倒れて光が差し込んだ場所にたまたま落ちたものだけが成長して、大木になれるのである。落ちた実が成木になる確率はきわめて小さい。それは海の魚が大量の卵を産卵して、そのごく一部のみが成長できるのとよく似ている。生命の営みの原理を知る思いがした。

 森の一番深いところで、「木の声を聞く」ワークをやってみた。自分の気持ちのよい場所をさがして、15分間、じっと木の声が聞こえないかどうか耳を澄ます、というものだ。あたりはちょうど蝉がかしましく鳴いていた。鳥の声、かえるの声も聞こえる。木の声を聞きわけるにはにぎやかすぎたかもしれない。
 15分がたち、みんなに集まってもらってどういう感じがしたかふりかえってもらった。その中に、「蝉や鳥の声がやかましかったけれども、街で音がなくしーんとしている時よりも、静かに感じた」という感想を述べた学生がいた。これはすでに森と対話しているということにちがいない。よい耳をもっていると思った。「最初の5分間は蚊がまとわりついて気になったが、そのうちいなくなった。周囲と一体化したのかもしれない。」と語ってくれた学生もいる。

 街の暮らしの中で心がささくれだった時には、森が話し相手になってくれる。そういう心の引き出しを持ってもらえたと思う。  

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございました (山男)
2007-07-11 10:44:12
奥矢作森林塾の杉野です。この度はありがとうございました。
炭窯の中、本当に気持ちいいんです。私は、職業特権で毎回味わっています。温熱治療にも使われるほどです。
裏谷の原生林では、私が生徒になっていました。あの場所へ皆さんをお連れして良かったと思います。
地球が本来あるべき姿を感じられたのではないでしょうか?
それにしても、学生さんたちは本当に幸せですね。だいずせんせいのような教官に、学生時代の大切な時間を使って教えてもらえるのですから。
返信する
追加です (山男)
2007-07-11 14:53:10
地球環境塾のブログも拝見しました。みなさん、原生林でビビッときたようで、良かった。
一つ言わせてください。末期的な人工林も、素晴らしい天然林も同じ森林です。どちらの環境も人間には作り出せません。それと、人工林が悪くて、天然林が良いと、言うのは簡単ですが、それを口に出す前に考えてみて下さい。典型的な放置林を作ったのは、私たちの祖先です。私たちに財産を残す、ただその一心で苦労されたのです。理想的なのは天然林です。自分たちの責任を果たし、その上で、理想に近づけるような山の手入れをしていきたいと、私は心から思っています。
返信する

コメントを投稿