執事好きの『名探偵登場』の楽しみ方

本日の召使 : ジェームズサー・ベンソンマム
(映画『名探偵登場』/原題:Murder by Death より)

『名探偵登場』

作品を創る技法に“パスティーシュ(模倣)”というのがあります。
ある作品や作家の手法、キャラクターを借りて新しい別の物語を描く方法です。
とうぜん観る側の、原作(あるいはキャラクターの特徴)への知識・理解度によって作品の面白味は左右されます。ものまね名人の芸を、元ネタとなっている人物を知らずに観てもあまり面白くないのと同じです。

名脚本家ニール・サイモンが書いた喜劇映画『名探偵登場』もパスティーシュのひとつ。“ミステリーへのオマージュ”にあふれたこの作品は、クラシック映画や往年の推理小説の予備知識が多ければ多いほど楽しめる仕掛けとなっています。

ストーリーは、ある屋敷に招待された名探偵たちが、「自称・世界一の犯罪学者」の主人から殺人予告の挑戦を受け、犯人探しに乗り出す―というもの。一同に会した名探偵たちが、それぞれ既存の有名キャラクターの“パスティーシュ”となっているわけです。

わたしが『名探偵登場』を初めて観たのは、もう十年以上も前のこと。
ひと目で判ったキャラクターは、ミス・マープルとポワロくらいかなあ。
ピーター・フォークはてっきりコロンボだと思っていたら、どうも様子が違う。
それもそのはず、サム・スペードという私立探偵(『マルタの鷹』が有名)だそうで…。
ピーター・セラーズ演じる風変わりな中国人はチャーリー・チャン警部。
デイヴィッド・ニーヴンとマギー・スミス演じるハイソな夫妻は 、
Nick and Nora Charles というシリーズで映画化された人気キャラクターとのこと。
(もっと詳しく知りたい方はこちらWikiの記事→Murder by Deathをどうぞ)
屋敷の主人役は小説家トルーマン・カポーティ(!)が怪演しています。初めて見た当初は、うわぁこんな高い声してるのか…びっくりしたもんだ。

元ネタをあまり知らないからあまり楽しめなかったか、といえば決してそうではありません。今回改めて映画を観なおして、執事好きならではの『名探偵登場』の楽しみ方を発見しました。
注目すべきは名優アレック・ギネス演じる執事、ジェームズサー・ベンソンマムです。

 名前にSirとMa'amが付いている執事

もう一度執事の名を記しましょう。
“ジェームズサー・ベンソンマム (Jamessir Bensonmum) ”
声に出して読むとよく分るのですが、名前にSirとMa'amがついているんですね。
Sirはご存知のとおり目上の男性に対する敬称です。Ma'amも同様で、目上の女性や召使いが女主人に呼びかける時に使います。もとはマダム madam で、のちに真ん中のdが抜け落ちた言葉です。英国では王族の女性への敬称でもあります。
映画の中で召使いと主人の会話を聞いていると、必ずといっていいほど召使いは最後に“~, sir”“~, ma'am”と敬称をつけて答えています。
つまりこの執事の名前には「主人への敬称」が付けられているんですね。召使いのくせに。

以上のことを念頭に置くと、次の台詞が楽しめます。
富裕階級に属する探偵夫婦ニックとノラ(映画での名はディックとドーラ)と、ふたりを出迎えた執事ベンソンマムのやりとりです。(下線と太字に注目)
ノラ
: Thank you. You are…? 「ありがとう。あなたは…?」

執事
: Bensonmum, ma'am.「ベンソンマムマム

ノラ
: Thank you, Benson. 「ありがとう、ベンソン」

執事
: Bensonmum. My name Bensonmum. 「(苦笑して) ベンソンマム。ベンソンマムといいます。

ニック
: Bensonmum? 「 (驚いて) ベンソンマム?」

執事
: Yes, sir. Jamessir Bensonmum. 「はい、サー。ジェームズサー・ベンソンマムです」

ニック
: Jamessir? 「 (再び驚いて) ジェームスサー?」

執事
: Yes, sir. 「はい、サー

ニック
: Jamessir Bensonmum? 「(念押しで) ジェームスサー・ベンソンマム?」

執事
: Yes, sir. 「(力強く) はい、サー
この場面はDVDの日本語字幕だと、よく分らないと思います。(上記の日本語訳は私の訳です)耳で聞くだけのほうが、サーサー、マムマム繰り返している三者のこっけいなやりとりがよく分ります。しまいにはサーとマムが混乱して、

ニック
: Thank you, Benson, sir. 「ありがとう、ベンソン、サー

執事
: Mum! Bensonmum. Ma'am. 「(強調して) マム! ベンソンマムです。(ノラに向いて) マム
サーサーマムマムが飛び交うあいだも厳然な態度を崩さないベンソンマムがいかにも「英国の執事」っぽくて、それがまた面白い。

 執事の定番イメージ ―名優アレック・ギネスの役づくり

ところで、事件の犯人として怪しまれる執事ベンソンマムは「盲目の執事(ブラインド・バトラー)」という設定です。名探偵たちが既存の名キャラクターのパスティーシュであるからには、名探偵たちと同じくらい重要な役どころのベンソンマムも「ある既存の盲目執事」のパスティーシュでないと、バランスが取れません。

残念ながら私はベンソンマムの元ネタとなる盲目執事の傑出キャラクターを知りません。そもそもはっきり「これだ!」と名指し出来るキャラクターが存在するのかどうかも分りません。

しかしまあ、執事といえば英国(スタイルの)執事を指すのが一般的ですし、推理ものに登場する怪しい執事が盲目であるという設定も、「執事が犯人」と同じくらい知られている定石です。となると、ベンソンマムは「人々がイメージする怪しい執事キャラクターのパスティーシュである」推論が成り立ちます。
別の言い方をすれば、ベンソンマムは「推理ものに登場する執事って、こんな感じ」と人々が想像する定番の執事のイメージを体現している、ということです。

ふーむ、執事の定番イメージかぁ…と思いながら、アレック・ギネスの惚れ惚れするような正統的・英国執事の演技に見入っていると、ふと、ある疑問が浮かびました。

「アレック・ギネスって、こんなに頭の毛が薄かったかなぁ…?」

おでこと頭頂部の地肌がまぁるくムキ出しになっておる。
わたくしが「正統なる執事の髪型」と定めている、そりゃあ見事なハゲアタマです。(注: 帯状にぐるりと頭頂部以外の毛は残す)
似合ってるし、完璧なスタイルだから問題はないんだけど―。

DVD付録のインタビュー映像で、ニール・サイモンが言っている。
「休憩の間、彼(アレック・ギネス)が読んでいた脚本を覗き込むと、題名が『スター・ウォーズ』だった。次に出演する映画だという。」

かの有名なオビ=ワン役だ。おお、あの頃か。
で、オビ=ワンの写真を見てみると―

こちらの写真(wiki掲載)をご覧下さい→Obi-Wan Kenobi
)

あっ! 毛がある! ヅラか? いや、あまりに自然すぎる! SFX? まさか。

ということは…

剃ったんだ! 執事の役づくりの為に剃ったんだ!

やるなぁ、アレック・ギネス!!

見事な役者魂、と話の流れではここで彼を持ち上げたいところですが、
いや、執事好きとしてはそれよりも、
「正統なる執事の髪型は、やっぱりハゲアタマであった」事実に、感無量なのであります。
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