1903年の執事―ウッドハウスのエッセイから

以前、当ブログにコメントを寄せてくださる小手鞠萌さまから、
「ミステリマガジン五月号」が執事・メイドの特集をしていますよ、と詳細なる情報を頂きました。
遅ればせながら、やっと五月号が手元に届きました。


ミステリマガジン五月号 :特集 執事とメイドは見た!

すばらしい特集記事です。
とくにミステリ書評家の杉江松恋氏による
「執事&メイドミステリはこれを読め!」はスゴイ。
読みたくなる作品がまるで収穫時の芋掘りのように、や、芋ヅル式にか?
ごろごろ、づらづらと行の畝から次々と顔を出してきて。
もぅ、赤ペンの丸囲みが紙上に乱舞しております。

ああ、本当に手に入れてよかった。
ありがとうございます、小手鞠萌さま。
わたくし、ミステリーの分野に暗いので、ほんとうに、感謝、です。

しかし何と言っても一番うれしかったのは、
ウッドハウスのエッセイ「執事よ、さらば」が読めたこと。
しかも、訳は国書刊行会のウッドハウス・コレクションでおなじみの
森たまきさん。うわっはーやった!

このエッセイは貴重ですね。
偉大なる執事ジーヴスを生み出した作家・ウッドハウス自身が、
実生活で執事たちとどのように接し、遇されてきたか?
数々のエピソードが本人みずから語られているだけでも珍重すべき内容ですが、
さらに貴重なのは、語られる執事エピソードひとつひとつが、
“執事が執事であった時代”の風俗記録でもあるのだ。

 ウッドハウスが語る1903年の“本物の執事”

エッセイは執筆当時(1957年)に70代だったウッドハウスが、
幼少から現在にいたるまでに出会った執事たちとの逸話をとりまぜながら
“本物の執事”について語っています。

ウッドハウスは言うのです。
近ごろの執事なるものは、
「おそらく当世風の間に合わせモノに過ぎないのだろう」
「第一次大戦後の執事は、われわれがかつて知っていたものの合成の代用品でしかない」

ウッドハウスの指す“本物の執事”とは、
第一次大戦まえの“使用人黄金期”に、堂々たる体躯で、眼光鋭く威風あたりを払って玄関ドアに立ちはだかる、百十キロの執事なのです。
私のように一九〇三年のロンドンで本物を見聞してきた身からすれば、連中は本当の執事には到底及ぶべくもない。執事だって? 二重あごでもないがさつな青二才の素人の群れが? けっ、である。と、こういう表現をお許しいただければだが。
許します。
いやいや、というか、うらやましいよなぁ。いいなぁ。
本物を知ってるからこそ、言えるんだもんなぁ。
実の無い、まがいモノ執事に対して「けっ」と。

使用人の制度に陰りが見え始めるのは、19世紀末から20世紀初頭です。
(ヴィクトリア朝時代を築いたヴィクトリア女王の逝去が1901年)
1903年当時、ウッドハウスは22歳です。
つまりウッドハウスは幼少期に“使用人黄金期”のふくいくたる香りを胸いっぱいに吸い込んで育ち、のちに衰退する使用人世界の最後の残り香を嗅いで青年期を過ごしたワケですね。ああ、やっぱりウラヤマシイ。

21世紀に生きる私たちは、“本物の執事”には、もう、会えません。
ウッドハウスに「けっ」扱いされた“当世風・合成代用品”の執事でさえも、年代から考えてほとんどが昇天されているでしょう。

いまの私たちには、形だけの、脱け殻のような執事しか残されていない…

ガッカリ。それと、ため息。

それでもたったひとつ、変わらないことがある。

私の本には伯爵の響きが強調されすぎであると批判する同じ批評家たちが、私が執事について書きすぎだと言って批判する
―(中略)―
実のところ、執事たちは常に私を魅了してやまなかった。
そうなのだ。
執事は、時代を隔てた現代でも、たとえ脱け殻しか残されてなくても、
やっぱりこうして私たちを魅了しつづけているのだ。
1903年のウッドハウスと同じように。

(追記)
エッセイ中の「私は一度だけ執事が声立てて笑うのを聞いたことがある」エピソードは最高です!!
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コメント
 
 
 
懲りずに情報を。 (小手鞠萌)
2007-05-01 19:22:39
 コメントの情報を取り上げて下さってありがとうございます!
 ミステリ系って、結構使用人が出て来て楽しいです。
 チョイ役ばっかりですが。

 調子に乗って、使用人関係で情報をば。
 エドワード時代の生活を再現したドキュメンタリー・ドラマの日本語版DVDが発売されます。
 勿論、執事も登場します……当然現代の人ですが、役になり切ってというか、のめり込んでいる様子。

DVD 「MANOR HOUSE マナーハウス 英國発 貴族とメイドの90日」公式サイト
http://www.manorhouse.jp/
 
 
 
…買ってしまいしました。 (countsheep99)
2007-05-05 15:00:50
>小手鞠萌さま。

ご紹介の公式サイトに入って十秒後には購入予約ボタンをクリックしてました。
(その件についてブログUPしました。5/5付)

16,800円也 …当分はカップめんの日が続きますな。

いやはや、しかし、小手鞠さま、よくぞこういう情報を。さすがですね。

DVDは5月25日の夜に到着予定です。
本当に、情報ありがとうございます。
観てエドワード朝時代にどっぷり浸かろうと思います。
 
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