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なおしのお薦め本(29)『生きるための死に方』a

  クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。 文字数(行数)がgooブログの1回の量を超えますので、2回に分けて投稿します。 

 『生きるための死に方

               新潮45

 この題名、どういう意味かなあ? としばらく悩みました。

 ですが、「新潮45」に掲載された〈特集・死ぬための生き方〉を中心に識者42人の文章が集められていること、「死ぬための生き方」という本が同じ形式で既に出ていることから、推測ができました。

 題名はさておき、これほどの人数の死生観が一冊の本で読めるのですから、ありがたいとしか言いようがありません。このような題材で文章を書くようにと依頼されて書いたら、それこそ、その人の人間性があからさまになってしまいます。深く書けば書くほどそうなるのは当然として、浅く書いたら書いたで、それも読者に対してある種のメッセージを与えていることになるでしょう。

 そんな難しい依頼に応えたのは、阿川弘之新藤兼人金田一春彦山室静秋山ちえ子河合隼雄高峰秀子樋口廣太郎上坂冬子清水邦夫ほか42名。オススメとして紹介するのは、岡本太郎、戸川幸夫、高田好胤の三人の文章です。

 まずは岡本太郎の文章から。初めてこの人の文章を読む人は、面食らうかもしれません。エンジン全開で、遊びがないですから。

 生きる━━その実体は瞬間にしかない。瞬間瞬間に炸裂し、過去も、先のことも考えない。それが私の自然だし、信念でもある。

 『死』を意識するとすれば、遠い先の方に、いつかやって来るものではなくて、いま、この瞬間に、生と裏腹にある」

 岡本太郎は18歳で渡仏し、ソルボンヌ大学の哲学科に通い始めます。

 「精神分析の講義もあって、フロイトを読んだ。彼の後期の学説のなかに出てくる『生の本能』『死の本能』……私は己の核に電気ショックを受けたように、一瞬で悟った。

 そうだ。生きるとは、生の本能だけではないのだ。熱く己を愛し、拡張し、己の世界をひろげようとするエロスの衝動。だがその裏には、すべてを否定し、冷たく、黒々とした虚無に還って行こうとするタナトスが、強力なアンビヴァランスとして働いている。

 『死の本能』が私の全人間の底で、強引に引っ張るからこそ、生命の歓喜が燃えあがるのだ。

 本能といえば当然、自己保存の欲求、持続、つまりプラスの方向への盲目的な意志と考えられるのに、それを断ち切ろうとする、ストップをかけようとする『死の本能』なんて、一見、逆説のように考えられるが、しかしそれこそ正しい。フロイトに指さされてみれば、私にはまさに疑いようのない実感であり、戦慄的に己の生命の実体をまさぐった思いがした」

 「……私はそれを自覚したとたんに、今までの迷い、弱さ、『生きる』方だけに賭けて、その為に逆にぐらぐらし、立ちすくんでいた状況から突き抜けることが出来た。俗な言葉で言えば、自分を可愛がり、生命を大事にしよう、生きがいを持って生きていきたい、と執着しこだわると、逆に弱い存在になってしまうのだ。

 私はいつでも断ち切る。いや、今この瞬間瞬間、『死』を足の下にふみしめている。それは陰気な、メソメソした気分ではなく、明朗に前にとび出して行く、危険に向って突っ込んで行くエネルギーの爆発なのだ。

 人はいつでも、あれかこれか、二者択一の岐路に立たされている。こちらを行けば成功が約束される、無難で安全な道。だが一方は危ない。失敗するのではないか。そうすれば破滅だ。そういうとき、私はためらわずに危険な方を選び、人生と戦おうと決めた。それは『死の本能』の命ずる道だ」

 読んでいるだけで体温が二三度あがるような気がしますが、いかがでしょうか。  ―続く―

 

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント(10/1 コメント投稿終了予定)
 
 
 
うわー!! (空猫)
2014-09-27 04:49:06
42もの中から選ばれた3、だけありますね!
心にズシンズシンときました

特に

「読んでいるだけで体温が二三度あがるような気がしますが、いかがでしょうか」

↑このコメント、よくもまあこんな表現が思い浮かぶものだと感心しました……今回一番残ったかもです。
確かにそんな感じがしましたね!!
 
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