惰天使ロック

原理的にはまったく自在な素人哲学

5月病記念(6)

2010年05月03日 | 他人の狂気
スター・ウォーズが終わってしまって以来、わたしは映画館で映画を見るということが、その動機ともども消え失せてしまったのだが、昔は話題の映画というとスター・ウォーズでなくてもよく観に行ったものではあった。友達と一緒に、あるいは彼女と一緒に観たこともあったのだが、たいていはひとりで観ていた。

彼女と一緒に映画を観るというのは、デートコースのひとつが映画館だということであって、映画そのものを観に行くという感じではなかった。映画そのものを観るにはやっぱりひとりで観るに限ると思っていたわけだが、そうすると映画館の客のほとんどは(だいたいわたしが観るような映画はそういうのばかりなのだが)友達連れであったりアベック(死語)であったりすることに、改めて気づかされたりするわけで、そうするとひとりで観ている自分は、どうも俺は間違ったことをやっているのではないだろうか、という気にさせられることもあったものである。

事実それは間違っていたかもしれない、というか間違っていたはずである。わたしの映画の観方というのは、基本的に映像作品をテレビで観ることを覚えた人間のそれであって、映画というのは「要するにテレビが大画面と大音響になったもの」だという感覚がどうしても抜けきらない。本当はもっといろいろな点で根本的に違うはずのものだということは、アタマでは判っているのだが感覚の方が追いつかない。

こういうことはよくよく気をつけなければいけないことだと緊張したりした、というのも、これと同じ種類の勘違いを、ふだん読みつけないマンガを読まされた大人は必ずしでかすものだということを、コドモの頃からしかと心に刻み込んできたからである。間違った読み方に基づいてマンガ作品を褒めたり貶したりしたところで、本当はまったく無意味なことを言っているということにしかならない。少なくとも現にマンガを読んでいるコドモの方からは、彼らが(たとえそれを絶賛している場合であっても)愚にもつかないデタラメを言っているな、ということだけは確実にわかってしまうものである。

本当はどうだかよくわからないが、マンガについてそうなら他の分野についても同じことで、そういう大人達はやはり同じように無頓着で、まったく無意味な毀誉褒貶を並べているだけなのではないか、そうだとするとひどい世の中だというのが、コドモの頃のわたしの気分の半分くらいを占めていたものである。

今でもわたしが映画というと「スター・ウォーズしか観ないよ」と言ったりする理由の半分くらいはそれである(残りの半分はただの事実を言っているだけである)。映画作品を「テレビが大画面と大音響になったもの」だというような観方しかできないところで、それでもこれは紛れもない傑作だと言って困ることがなさそうなのはこうした系列の作品だけだとわたしには思える。いわゆる「芸術映画」のたぐいを観て、これは面白いと思ったことは、経験上の事実としてわたしにはただの一度もないし、時々そう言ったりもしている。ただ、その場合でも必ず「俺はスター・ウォーズしか観ないから」と断って言うことにしている。

実際、欧米諸国の文化的伝統というか文脈のどこかには、芸術映画を面白く観る観方が存在しているのかもしれない。だからわたしの言い分には「そうだとしても、俺はその文脈の中にはいないのだから判らない、それは仕方ないじゃないか」という意味と、「それが映画の正しい観方だと言いたいのなら問答無用の却下でクソ食らえだ」という意味の両方が籠められている。時には文字通りそう説明することさえあるのだが、どういうわけかわたしが何を言っているのか理解してくれた人はひとりもいないのである。だからたぶん、今ここで書いているこれも、閲覧者はわたしが何を言っているのかサッパリ判らないに違いない。

・・・書いてるうちに全然関係ない話になってしまった。本当はひとりで映画を観に行く時のあの気まずい感じは、便所飯のワカモノが感じているのかもしれない気遅れに似ているのかもしれないと思って、それを書こうとしたのだ。でも考えてみると気まずい感じはあるにしても、周囲から「映画を一緒に観に行く友達や彼女もいない人のように見られている」という感覚は、少なくともわたしにはまるでなかったのである。また仮に本当にそう見られていて、わたしがそれに気づくことがあったとしても「放っとけや、大きなお世話だ」という態度で通して、かくべつ何の障害もなかったであろうことも確実なのである。
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