7. 社会的現実(承前)
これらの地位機能はどうやって創出され、また維持されるのか?簡単に答えるなら言語的表象によって創出され維持される。そしてそれは常に明示的な言語行為の形態ではないが、同じ論理的構造を下敷きにしている。それらはすべて前述した意味における宣言型言語行為の形態を持っている。だから我々が誰かを大統領にする、あるいは誰かに学位を授ける、何かをお金として扱うとき、我々は彼を大統領、学士号、お金として表象することによって事態を成立させる(make it the case)。これらの地位機能宣言(Status Function Declaration)──とわたしは呼びたい──は双方向の適合方向をもつ宣言型言語行為すべてがもつ特徴をもっている。
それらは事態を表象することによってその事態を成立させるのである。
地位機能宣言の効果(effect)は権力(power)の創出である。我々はお金、政治的構造、私有財産を持つことによって権力を増大させる。地位機能を研究する単純なモデルは人間のゲームである、というのもそれらは人間の生活のそれ以外の側面と切り離して理解することができるからである。たとえば野球における投手、打者、走者はすべてゲームの外では持たないような何らかの権力※を持っている。
※ | この場合「権力」という訳語はどうにも適切ではないわけだが、かといって「力」なら適切だというわけでもない。この文脈におけるpowerはサールにおいて確かに普通の意味での「権力」も含んでいるので、さしあたって訳語は「権力」のままにしている。 |
これらの権力はどんな種類のものなのだろうか?さよう、それらは「権利」「義務」「責務」「必要」「権威」「許可」などの語でしるしづけられるような、ひとつの特異な力※の集合である。
※ | この「力」もpowerだが、ここはこの訳の方が適切であろう。 |
これらを表す一般名詞(general label)として、わたしはこれらを「権利義務力(deontic powers)」と呼ぶ。また、これらの権利義務力を具現化するような事実、野球の試合で走者であるとか、合衆国大統領であるとか、ある紙切れは20ドル札であるとかいった事実を「制度的事実(institutional facts)」と呼ぶ。我々は今や関係の状態の集合を設定することができ、さまざまな能力を除いたところの、人間の文明の構造の骨組みを理解することができる。制度的事実の形態における制度的現実は地位機能宣言の形態をもつ言語行為によって創出される。そうした言語行為は地位機能の創出し維持する。また地位機能は例外なく権利義務力をもつ。機能を創出する実際の言語行為は明示的な宣言型言語行為の形態をとる必要がないということを強調することは、たぶん重要である。人はリーダーとして扱われることによって、あるいはそうと認識されることによって、あるいはリーダーとして表されることによってリーダーにされてしまうということがありうる。ただ肝心なのは、そうは言ってもある表出の形態は問題の制度的事実を創出する上で本質的だということである。
(つづく)