じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

ばあたん、眠りながら話し続ける。

2005-08-05 05:50:27 | じいたんばあたん
夕べから、寝る前の薬が変更になったばあたん。
今度の薬は、セロクエル。メジャートランキライザーの一種である。
高齢なので、25mg錠を半分に割ったものから開始。
(脳に作用する薬は特に、少量から、高齢者には投与するのだ。
 せん妄などを起こしやすいからである)

今まで飲んでいたレンドルミンを中止して丸二日。身体から抜けたころだ。

さて結果は。

とりあえず、手は全然握ったりしなかったけれど、
寝息をたてていたのは一時間半程度。
あとはずっと、空に向かって、目を閉じたまま延々
離し続けていた。

整合性があるようなないような、
ものすごくはっきりした寝言のような感じなのだが、
身振り手振りがある。
そして、私が話を促すとちゃんと、答えらしきことを言おうとする。

意識があるかないかのギリギリのレベルで、
やはり眠れてはいないような気がする。
たぶん昨日、昼に結構な時間、じいたんが眠らせたのだろう。
昼夜逆転はあまりよくないのだが、仕方がない。

一方で、リラックスしているようにも見える。
本当に、話したいことを思いつくまま、
誰かに向かって話し続けているような感じで、
ひとりで話し続けていても、なんだか楽しそうな印象である。

とりあえず、今日主治医に報告しておいたほうが良いかもしれない。


先ほど、5時ごろ、ばあたんは起き上がったので、
りんごジュースで水分補給をして
(飲むという動作を忘れているような印象。
 声がけも慎重にやらないと、混乱して飲まなくなってしまう)

童謡のCDを掛けて、もう少し横になっているよう促し
傍にいながらこの記事を書いている。


ばあたんは、歌を口ずさみながらも、目は、閉じている。
疲れがたまってしまわないかしら…


追伸:
コメント返信、もう少しお待ちくださいませ。
もう少し集中できる環境で
(つまり自宅に戻ったときか、祖母が眠っているとき)
書きたいので…

じいたん、介護人デビュー。

2005-08-05 04:43:49 | じいたんばあたん
水曜夜、祖父母宅に私はいなかった。
ずいぶん前から入れていた約束があり、渋谷へと出たのだ。
ヘルパーを臨時に入れたのだが、正直気が気じゃなかった。

いくら「夜の食事・着替え・服薬介助」と、
「夜間の巡回(ばあたんの様子見とトイレ介助・水分補給)」を
お願いしていたところで、もしばあたんが不穏だったら、
じいたんが参ってしまうからだ。



夜中、最終電車で帰宅し、タクシーで祖父母宅を覗く。
とりあえず、落ち着いた様子なので自宅へ戻って休むことに。
(徹夜は、二日間が限界。30代に入ってから…orz)

翌朝、電話で起こされた。用事をしながらだが、立て続けに7本。
介護関係・事故関係・身内関係。
どれも「重要」かつ「時間のかかる」用件ばかりで、
なかなか自宅から出れなくて、ハラハラ。

整形外科への通院はあっさりあきらめ、
じいたんに、大体90分おきに電話を入れながら
(相手を待たせて、使っていない電話機で掛けるのだ)

「今日はおばあさん、だいぶ落ち着いていなさるから、
 お前さん、ゆっくりおいで」
という言葉に甘え、

何とか祖父母宅にいけたのが、夕方だった。


じいたんは、うたたねしているばあたんを見守りながら
わたしを待っていた。
少し疲れた表情。でも何か満足そうな様子。


聞くと、初めて、
ばあたんの紙おむつを、じいたんみずから替えてあげたとのこと。
おしもも、拭いてあげたのだそうだ。

しつこいようだが、じいたんは、90を超えた男性である。
看護師を呼ばなかったの?と驚愕して尋ねたら、

「だってお前さん、おしもが汚れたままでは、
 おばあさんがあまりに気の毒じゃあないか。
 それに、孫のお前さんができるんなら、わしだってやらなくちゃ。
 おじいさんは、おばあさんと、一心同体なんだよ。」

…かっこいい。かっこいいよ!じいたん!
90超えて、それまでまったく未経験で
妻のおしもの世話が出来る夫なんて、いないよ。

嬉しくなってじいたんに抱きつくわたし。
じいたんも、本当に嬉しそうに笑って抱きしめてくれた。

じいたんはさらに続ける。

「おばあさんにご飯を食べていただくのも、
 今夜はおじいさんがやるよ。
 お前さんに言われたとおり、
 決しておばあさんを急かさないように、気をつけてな、
 お匙で少しずつ、食べさせて差し上げると、
 おばあさん、とっても喜んで下さるんだ」




夕食のとき、そういうわけで、
食事の介助をじいたんに任せて、そっと見守る。

ばあたんが、汁物の器を持ったまま目を閉じていても、
じいたんは、そっとしておいている。
いい感じだ。それが大切なのだ。

ばあたんが目を覚ましたころを見計らって、
おかずのほかに、ちょっと食べやすいものをと思い
桃のゼリーを包丁でくだいたものを、用意する。

じいたんが、一匙一匙、少しずつ、ばあたんに食べさせる。

しっかりと、ばあたんの表情を確かめ
ゆっくりゆっくり、声がけをしながら、食べさせている。
スプーンの扱い方をわたしに、尋ねてくるので、
「ここで、くるっとまわしてあげるの」など教える。


ばあたんの食事介助をしているじいたんは、なんだか楽しそうだ。
自らも認知の低下を抱えているにもかかわらず、
立派に、介護者になっている。

穏やかな表情でおとなしく、一匙一匙食べさせてもらっている
ばあたんの顔も、どこか幸せそうだ。


こんなふうに、年老いても、時をわかちあえるカップルが
いったいどれだけ、いるだろう。

物音を立てないように気をつけながら、
この風景をずっと、見ていたいと思った。
見たのは、わたしだけ。
わたしの中にしか記録されない風景。
絶対に、忘れない。

労わりあいながら生きている老夫婦の、日常のひとこま。



八月四日、じいたん介護人デビューの日。