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街の散歩…ひとりあるき

02-03 淨居佛 三(みたび)悉逹太子を試す『釋迦尊御一代記圖會』巻之3 

2024年09月16日 | 宗教

して歩ませ賜えば、三新宮は後宮、婇女(さいじょ)を従え、車に乗じて瑞逐(ずいちく)なる。烏将軍は教
導(あない)として先に進み、新たに営みし行(あん)宮に請じ入れ奉り、酒宴を催し伎楽を奏して慰め進
(まい)らせけり。太子は逸楽を好み賜わざれば、少時ありて烏陀夷以下十余人を従えて野径(やけい)を
逍遙し、遠近(おちこち)眺望し賜うに、一大樹繁茂し其の下に平博(たいらか)たる石有て、青苔(せいたい)緑
の繵(せん)を布(しき)たる如くなれば、太子甚だ愛し賜い烏陀夷等を顧みて曰わく。汝たちは此の
所に待てよ、丸(まろ)は彼(かの)石上に憩て風景を翫(もてあそ)ぶべしとて、唯一人寛(ゆるや)かに歩んで彼樹
下席上に端坐し賜い、静かに思念してぞ御坐(おわし)ます。其の時淨居佛化(け)して一人の比丘(びく)
となり薙髪(ちはつ)して法服を着し右手(ゆんで)に錫杖を策(つき)、左手(めて)に鉄鉢を把って来たる。烏陀夷
以下の者は瞬きもせず、太子の動止を守りけれども、曽て此の比丘を見る事なく唯太子の
み御目にとまり問うて曰(のたま)わく。汝は是何者ぞや。淨居佛答えて曰く、貧道は是比丘なり。
太子、何をか比丘といおうや。答えて曰く、能く父子夫婦の愛着を断ち、輪廻を離るゝ是
を比丘と謂えり。太子亦問い賜わく、何が故愛着を捨て輪廻を断つや。答えて曰く、一切衆生皆
五濁(ごちょく)の為に身を汚し六欲の為に心を惑わされて、老病死の迅速たる事を悟らず。生死
の苦界に沈淪して無上菩提の快楽有ることを知らず。我が修学する所の如きは色

聲香味触(しきしゃうこうみじょく)法に執着せず、無漏聖道に心を遊しめ遠く八苦の海を過ぎ解脱の岸に着
き、無為の都に到るなり。それ王侯貴人より以下一切衆生の世に在ること、例えば一つの井の裡に
陥り半途に僅の小草有るに取着き下を臨ば毒龍口を張て堕なば呑んず勢をなし、上を望ば悪虎牙を
怒らして上らば喰んと待つ。然ば上るに難く下るに難く、剰(あまつさ)へ力とする小草すら黒白の鼠来
てその根を食(はむ)如し。かゝれば妻子珍宝及び王位の貴きも特(たのむ)に足らず。一たび無常の刀風に
遭わば悉く解けなん。嗚呼、危うきかなと打うめき忽然として満身金色の光を放ち端厳妙相の佛と
化し虚空に謄(のぼ)りて去り給う。太子、愕然として初めて悟り賜い、偖(さて)は諸天、仮に比丘の姿と
化し出家功徳の広大なる事を説示し賜うにぞ。善哉善哉、天人の中、唯無常菩提の道勝れり。丸(ま
ろ)誓って此道を学び天人ともに化度(けど)せんと大道心兹(こゝ)に決定し、胸の雲霧打霽(はれ)て新たに真
如の月を見る如く歓喜踊躍(ゆやく)に勝賜わず、烏陀夷を近く召され、丸(まろ)今日は甚だ楽しめり、い
ざ還るべしと曰う。烏陀夷が曰く、君、たまたま此の行宮へ入らせ賜いまだ半日をも過ごし賜わず。
希(ねがわく)は暮るまで御遊ならせ賜えと勧めけれども太子頭を振り賜い、否、楽しみは極むべからず。
早く帰路を促せよと仰するにぞ、烏陀夷已む事を得ず、烏将軍に其の胸を告げ、太子を宝輦に乗せ奉
り三新宮及び数多の宮女前後を囲繞し終に月景城へ還幸なし奉りけり。此の日、玻利舍那城の
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