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街の散歩…ひとりあるき

28-29淨居佛再び悉逹太子を試す…『釋迦尊御一代記圖會』巻之2

2024年09月06日 | 宗教

世の人、此の大難を抱きながら何ぞ逸楽に荒(すさ)み、飲食を貪るやと深く怕れたまい、憂
然胸に満ちて仮山(つきやま)遊覧の御心消え失せ、烏陀夷を召して今日も又心地煩わしければ
是より還幸すべしと曰う。烏陀夷大いに驚き是(こ)は如何なる御意(こころ)そうろうや、先には老
人を見て園林へ到りたまわず、宝輦(ほうれん)を回(かえ)されて母君の御心をやぶりたまい、今日、亦、
病者を見て御車を回したまはゞ、不幸の罪のがれたまわじ。君、深山に在(ましまし)いまだ老人
病者を見たまわざれば御身の汚れなく如く思し召せども、是は普(あまね)く世に有ることにそうらへ
ば、世のつねの事と思し召し、只、仮山(つきやま)御揺籃あって御心を慰めたまえ。是、大王へも御孝
行にてそうろうと諫め奉る。太子は淨居佛の為に励まされ厭離の心倍(ますます)深く敢えて遊楽を
欲したまわざれと烏陀夷が申す如く、先には半途より回りて憍曇弥夫人の意(こころ)
に背き、今、亦、半途より回(かえ)りて父大王の叡慮に背かば実に不幸の子に
て罪を謝し奉らん道なしと思い返し心ならず、御承引ましまし典薬を召して
病者に胃薬を施し与え、仮山(つきやま)へ至りたまう。烏将軍は大いに悦び半途まで出
迎えて宝輦に随逐し一亭一耬ごとに御車を止めて種々に饗応し奉り歌舞
吹弾はいえば更なり、百般(いろいろ)先般(さまざま)の遊楽をなして太子を慰め奉る。然れど

も太子は珍菓佳肴(かこう)にも御心とまらず。女楽美婦にも目をかけたまわず。咲き散り花を見ては
飛花落葉の無常を観し、飛泉流水を見たまうも、光陰の移ること猶是よりも速やかなりと打ちうめ
きたまい、左右(とかく)して日も稍(やゝ)西に傾きければ、烏陀夷を召して還幸を命じたまう。烏将軍
は王命を承りたれば、尚幾日も御車を留めんと種々諫め奉れど、曽(かつ)て承引したまわず、袖を払
って寮の御馬に召され、従者に前後を守らせ還幸なしたまう。然るに淨居佛、此の時また思いたま
うらく。已に老人、病者と化(け)して太子の心を試しつ。今亦死相しめし愈(いよいよ)その道心を熾(さか
ん)にせん。然(しか)はあれど衆人に見る事を得せしめば、外吏の科とし刑(つみ)を加え、辜(つみ)無きを僇
(りく)するに至らん知らず。太子、烏陀夷二人のみ見ることを得、他の者は見ることなからしめんに
は、と、斯くの如く思惟(しゆい)し神通を以て死者となり還幸の道延(みちのべ)に横たわり伏す。その躰
呼吸已に断え色相悉く土色と変じ、見るもいぶせき刑相(ありさま)なり。然れども諸人の眼には見え
ず。太子と烏陀夷とのみ眼に遮りぬ。太子馬を停(とどめ)て烏陀夷顧みたまい是は何者ぞ
と問いたまう。烏陀夷賢しき者なれば肚の中(うち)におもえらく、已に老人と病者と有って、我、
其の然る所以を告げ太子の御心を煩わし奉りたれば、此の回(たび)は知らじと申して答え奉らじと
思いけるに、淨居佛早く其の心中を察し、神通力を以て烏陀夷が心を放心させ不覚(おぼえず)
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