海や船や船員のこと
かつて船員(1970年代)だったころ、どの船にも海員組合が発行した冊子ふうの機関紙が届けられ、それを熱心に読んだものである。航海中はすることもなく、退屈だったこともあるが、その中に、私がここで借りている「かたふりサロン」という自由投稿欄があった。「かたふる」などという語彙は、船乗り独特の言葉で、新鮮な響きがあった。船内生活でしか使わない、現在でいう「業界用語」の一つだったかもしれない。
語源はよくわからないが、船員たちが「肩を振って話をしている」(注)からきた、などとややこじつけ気味の解釈が流布していた。そのためか、談笑することを「肩ふる」などとあてている者もあった。
私は、船を下りてかなり経ってしまったが、船員になるきっかけともなった港町に戻っているので、この言葉を使って、徒然なるままにワープロを叩いてみることにする。
プルーストのマドレーヌの話ではないが、太平洋の海鳴りや潮騒を耳にし、あるいは港に停泊している貨物船などを目にしていると、どうしても船員だったころのことを憶い出してしまうのだ。
そもそもなぜ、船員養成学校とは関係ない大学をやめてまで、船に乗ってしまったのか、今になればよくわからない。いろいろ分析してみたが、どれも必要充分な理由や根拠にはなっていない。まあ、おいおいこのあたりも「肩ふって」いこうと思う。
<注>・・・誰の説か知らないが、揺れている船の上で話をしているのを背後から見ると、船の揺れとともに肩も振れているように見えたから、そういうようになったらしい。<「全日本海員組合」の「カタフリコーナー」>
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます