前回で、「新釈生麦事件物語」出版後の経緯を述べてきたが、一区切りをつけたと思っているので、再度、「肩ふりサロン」に戻ろうと思う。
生麦事件で、英国人・リチャードソンを最初に斬りつけたのは、定説上の奈良原喜左衛門ではなく、弟の繁だよ、といい続けるのに少々疲れてきたのも事実である。また、鹿児島を離れたということがある種の情熱を奪っていったのかもしれない。
ところで、鹿児島も港町だった。「だった」ではなく、昔から港町なのであるが、たとえば、今、私が住んでいる清水という港町とは、かなり雰囲気が違っている。鹿児島は「人」の移動する港という感じなのだが、清水は「物」が出入りしている港なのである。
地図を見ればわかる通り、鹿児島から沖縄まで、それからまた台湾までと点々と島が存在する。天(あめ)のヌボコで小さな泥を垂らしたように。
だから、鹿児島港の主要な埠頭には、それぞれの島や諸島に向かうフェリーや貨客船やホーバークラフトが占めていて、貨物埠頭は隅に追いやられているのである。ましてや、清水港にあるような巨大なガントリークレーン(注)を備えたコンテナ埠頭は、記憶にない。
私は、人が主体の鹿児島のような港のほうが、情感があって好きだが、鹿児島の人たちは、自分たちが「港町」に住んでいるという意識はなかったように思える。つまり、港や海と一体化しているという感じがしないのだ。どうも街の対岸にある噴火山(桜島)の存在が目立ちすぎて、それを隠してしまっていたのかもしれない。
一方、清水港は、現在、かつての海水浴場を埋め立てて、船長300メートルを超える巨大なコンテナ船が出入りする埠頭が主役になり、30年以上も前の、一般の貨物船に混じって、マグロ船や鰹船も頻繁に出入りするような賑やかさはなくなっている。その分、街の通りから一番近い埠頭は、親水公園のように整備され、ヨットハーバーや港内巡りの観光船や伊豆半島まで往復するフェリーの船着場になっている。なるほど、かつてから比べれば随分港が近くなったように思われるが、本来、港の主役の一人である外国船の船員の姿はどこに行ったのだろうか。
30年以上も前は、外国船が着岸している岸壁に自由に出入りし、外国船の船員たちと身振り手振りでコミュニケーションをとろうとしたものだが、今はもうそこへは自由に往き来できなくなってしまっている。
(注)・・・コンテナ船は、荷役の省力化ためか合理性のためか、船自体には荷役設備はない。その代わり、岸壁に巨大なクレーンを備え付けなければ、荷の積み下ろしはできないのである。その岸壁にある巨大クレーンをガントリークレーンという。港にある最大の恐竜化石のように見える。
生麦事件で、英国人・リチャードソンを最初に斬りつけたのは、定説上の奈良原喜左衛門ではなく、弟の繁だよ、といい続けるのに少々疲れてきたのも事実である。また、鹿児島を離れたということがある種の情熱を奪っていったのかもしれない。
ところで、鹿児島も港町だった。「だった」ではなく、昔から港町なのであるが、たとえば、今、私が住んでいる清水という港町とは、かなり雰囲気が違っている。鹿児島は「人」の移動する港という感じなのだが、清水は「物」が出入りしている港なのである。
地図を見ればわかる通り、鹿児島から沖縄まで、それからまた台湾までと点々と島が存在する。天(あめ)のヌボコで小さな泥を垂らしたように。
だから、鹿児島港の主要な埠頭には、それぞれの島や諸島に向かうフェリーや貨客船やホーバークラフトが占めていて、貨物埠頭は隅に追いやられているのである。ましてや、清水港にあるような巨大なガントリークレーン(注)を備えたコンテナ埠頭は、記憶にない。
私は、人が主体の鹿児島のような港のほうが、情感があって好きだが、鹿児島の人たちは、自分たちが「港町」に住んでいるという意識はなかったように思える。つまり、港や海と一体化しているという感じがしないのだ。どうも街の対岸にある噴火山(桜島)の存在が目立ちすぎて、それを隠してしまっていたのかもしれない。
一方、清水港は、現在、かつての海水浴場を埋め立てて、船長300メートルを超える巨大なコンテナ船が出入りする埠頭が主役になり、30年以上も前の、一般の貨物船に混じって、マグロ船や鰹船も頻繁に出入りするような賑やかさはなくなっている。その分、街の通りから一番近い埠頭は、親水公園のように整備され、ヨットハーバーや港内巡りの観光船や伊豆半島まで往復するフェリーの船着場になっている。なるほど、かつてから比べれば随分港が近くなったように思われるが、本来、港の主役の一人である外国船の船員の姿はどこに行ったのだろうか。
30年以上も前は、外国船が着岸している岸壁に自由に出入りし、外国船の船員たちと身振り手振りでコミュニケーションをとろうとしたものだが、今はもうそこへは自由に往き来できなくなってしまっている。
(注)・・・コンテナ船は、荷役の省力化ためか合理性のためか、船自体には荷役設備はない。その代わり、岸壁に巨大なクレーンを備え付けなければ、荷の積み下ろしはできないのである。その岸壁にある巨大クレーンをガントリークレーンという。港にある最大の恐竜化石のように見える。