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「アイヌの昔話『二つ頭のクマ』完結編」 2013年6月13日(木) No.679

2013-06-13 18:57:25 | 文学
「アイヌ」とは北海道の先住民族である。
アイヌ語で「アイヌ」とは「人間」という意味だが、
〈アイヌコタンでアイヌという言葉はとても大切な言葉で、
行いのいいアイヌだけを「アイヌ」と言い、
病気でもないのに働きもしないで、ブラブラしているような者は
ウェンペ(悪い者)と言うのです〉

と、萱野茂さんは「アイヌ ネノアン アイヌ」の文中、語っている。
和人の松前藩が現在の北海道を侵略する前、
その地は「アイヌモシリ」と呼ばれ、アイヌ人たちの土地だった。
「アイヌ=人間」「モ=静か」「シリ=大地」、即ち「人間の静かな大地」だ。
アイヌの昔話には非常に多くの神々が出てくるが、
人間と神との関係は対等なのが話の内容から分かる。
昨日、少年がシロハリガネムシの神に助けを求めたとき、
「もし、(私を助けないせいで)死んだら、私の屍から出る悪臭は、
霧となって神であるあなたを悩ませるであろう」

と、ほとんど脅迫めいた言葉を発している。
神様も溜まったもんじゃないので、助けに来たが、
その神様の風貌についても、
「そんなに強そうではない若い男」と描写しているのも面白い。

それにしても、ヨモギはすごい。
この地上に一番先に生えた草だとは!(双子葉類で、という意味かな?(^O^))
あの独特の香りを嗅ぐと悪霊が逃げていくというのも納得だ。
頭がスッキリするんだよね、あの香りは。
ヨモギ餅にしても美味しいし~

さあ、あの後少年はどうなったのでしょう。
「二つ頭のクマ」完結編の始まりはじまり。

気がつくと、太陽は西に傾いていました。
姉たちが心配しているだろうと思った私は、何事もなかったような顔をして、
姉たちのところへ大急ぎで戻りました。
姉たちは、
「全く心配をかける弟だ。一体どこへ行っていたの?」
と、私を叱りつけながら、ウバユリを背負って家に帰ってきました。
家でも父や兄たちが、私が家を抜け出し、山へ行ったことを心配しており、
私を連れて行った姉たちが、うんと叱られてしまいました。
父の言うことには、一番末っ子に生まれた私は、神から授かった子なので、
めったに外に出してはいけない子だったということです。
その上、姉たちと私が、人食いグマのいる山の近くに行ったことで、
なお心配していたのでした。

その晩、私は今日の出来事を父たちに一言も話さず寝てしまいました。
ところが次の朝、まだ夜も明けないうちに父や兄たちは、起きてくると、
「昨日の出来事をなぜ黙っていたのだ。
私たちはそれをシロハリガネムシの神様から夢で知らされた」
と言って、太い木の火箸で、私の尻っぺたをぶちました。
「昨日聞かせてくれたら、すぐに神様たちにお礼を言うことができたのに」
と言いながら、父たちはさっそく酒を醸し、イナウを削り始めました。
酒とイナウができると、それをハンノキの神、ヤチダモの神、
シロハリガネムシの神に捧げて、丁寧にお礼を言ったのです。

神は、私が何も知らないうちに、私をして恐ろしいクマに言い掛かりをつけさせ、
私が神々に助けを求めるように仕向けたのです。
こうして神々は、私を使って、見事にクマを退治しました。

その後、私は美しいお嫁さんをもらい、
たくさんの子供に恵まれて、楽しく暮らしていますと、
一人のアイヌが語りました。

文:萱野茂「アイヌ ネノアン アイヌ」(月刊「たくさんのふしぎ」No55福音館書店)
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