「・・・またアンダークラスには、「父アンダークラスまたは不詳」の人が多い。父親が不在だったり、父親が安定した職についていないことは所属階級に影響し、人をアンダークラスへ導く要因になっている可能性がある。さらに、アンダークラスには、親から暴力を受けた経験のある人が多い。」(p215~216)
いわゆる「アンダークラス」が発生する要因としては、親(特に父)の属性や子への言動が大きいとされるが、デビット・ビントリー版「シンデレラ」においては、冒頭から、シンデレラが「アンダークラス」的な状況にあることが示される。
「台所に住まわされているシンデレラは、継母と義理の姉たちに虐げられながらも、優しく強く生きていた。ある日、シンデレラはみすぼらしい身なりの老女を助ける。実は老女はシンデレラの母の慈愛の心を持つ仙女だった。仙女はシンデレラに魔法をかけ、お城で催されている王子のお妃選びの舞踏会に彼女を送り出す……。」
このバレエは墓地のシーンから始まる。
そこには、幼いころに亡くなったシンデレラの実の母と、最近亡くなった実の父の亡霊が登場し、シンデレラに別れを告げる。
これによって、彼女が孤立無援の状況に陥ったことが示される。
父の死後、シンデレラは継母と義理の姉たちの虐待を受けながらも、優しい心を失わずに家事にいそしんでいた。
実は、継母も裕福ではないので、シンデレラを家政婦代わりにこきつかっていた。
つまり、この一家は、父(夫)の死によって「アンダークラス」へと転落していたのである。
ある日、シンデレラがみすぼらしい身なりの老女が迷い込んできたので、彼女を助けるべく母の形見である大切な「靴」まで分け与えたのだが、何とこの老女は、シンデレラの母の「慈愛の心」を持った仙女だった。
この仙女が、シンデレラを助け、”シンデレラ・ストーリー”を進行させていくのであり、影の主役である。
このように、「慈愛の心」(= animus)と「靴」(= corpus)の合体が、この物語の核心を成していることが分かる。
この「仙女」は、一見すると、「眠れる森の美女」の「リラの精」に似ている。
だが、「リラの精」は、「オーロラ姫の幻」(=animus)をデジレ王子に見せるだけで、自身は animus 化しないのに対し、「仙女」は、自ら animus 役を買って出ているのが新鮮である。
但し、「アニー」では「ウォーバックス」、つまり「戦争(War)」と「金(Bucks)」は、 corpus を代表しているのである。
・・・というわけで、現在の日本においても、animus と corpus をどう結び付けるかが、「アンダークラス」脱出・解消の鍵を握っていると思う。
要するに、個人の能力や資質と、それを育み活かすための仕組み(教育、雇用など)がうまく結合しなければならないのだが、1985年頃以降、それが機能していないようだ。
要するに、「シンデレラ」は、もしかすると、世界的に見ても”絶滅危惧種”になっているかもしれないのである。