「新国立劇場では、海外のバレエ団で活躍する日本人ダンサーを母国とつなぐプラットフォームとして2009年よりバレエ・アステラス公演を実施してまいりました。」(理事長ごあいさつより)
さて、「バレエ・アステラス」は、委員の先生方が国内大手バレエ団の主宰者ばかりなので、容易に推察されることだが、出演者によっては事実上の「転職面接」の意味を持っている。
実際、過去において、この舞台で活躍したダンサーが委員の先生のバレエ団に入団したケースは結構ある。
なので、純粋に踊れるのは第一部のトップバッターである新国立バレエ研修所の研修生と、第二部のトップバッターであるパリ・オペラ座バレエ学校の団員さんくらいなのではないかと思ってしまう。
また、今回に限って言えば、「純粋に踊れる」と言うとゲストである高田茜さん&平野亮一さんもそうかもしれない。
この二人は、もはや委員の先生方にアピールする必要もない大物だからである。
というわけで、新国立バレエ研修所の研修生による「トリプティーク~青春三章~」が始まると、みな一皮むけたように上手くなっているのに驚く。
ダンサーに限らず、舞台芸術家というものは、こういう大きな舞台で経験を積むことによって成長するのではないだろうか。
同じことはオペラ座バレエ学校にも言えることであり、こちらは世界中で踊ることによって鍛えられていくのだろう。
演目については、オペラ座学校は、「ゼンツァーノの花祭り」と「ナポリ」で、ブルノンヴィル作品を並べて来たのが注目される。
そう言えば、前々回の「世界バレエフェスティバル」で、オペラ座のマティアス・エイマンは「ゼンツァーノの花祭り」を完璧に踊っていたのを思い出したが、これはもしかすると、オペラ座学校の必修科目なのかもしれない。
そして、これに平仄を合わせるかのように、ヒューストン・バレエのジェシー&アクリさんも、ブルノンヴィルの「ラ・シルフィード」を選んできた。
全くの推測だが、委員の中に、「ブルノンヴィル・メソッドを教育に取り入れたい」、あるいは「ブルノンヴィルを教えられるダンサーを採用したい」と希望する先生がいらっしゃったのかもしれない。
「コリオの承継」という観点からすると、高田&平野さんもそうで、マクミラン路線の継承者とも言うべきウィールドン(Within the Golden Hour よりパ・ド・ドゥ)とリアム・スカーレット(『アスフォデルの花畑』よりパ・ド・ドゥ)をチョイス。
どちらも幾何学的で緻密な構成を特徴としているが、複雑なパートナーリングや大胆なリフトが頻出するため、技術的にも難易度が高そうである。
後者については、平野さんは(大親友の)亡きリアムの作品をこれからも生かしていくことを目指してこの作品を取り上げたそうだ。
つまり、リアム作品は、「コリオの承継」という観点から選ばれたようなのだ。
ところで、今回、舞台上ではなく、またダンサーではないのに踊っている人物がいた。
それは、指揮者のアレクセイ・バクランさんである。
新国立ではお馴染みの方で、飛び跳ねる奏法と、鼻息(鼻歌?)で一部には有名だと思われるのだが、今回は、明らかに「踊って」いたのである。
つまり、舞台上で演じられるパ・ド・ドゥと同時に指揮台上でバクランさんが飛び跳ねるため、「変型パ・ド・トロワ」と化しているのである。
それがまず顕著だったのは、「ロミオとジュリエット」、「シンデレラ」の2作品で、これはやはりプロコフィエフの曲が大好きだからなのだろう。
だが、意外なことに、彼のダンスと鼻息がマックスに達したのは、ラストの『アスフォデルの花畑』だった。
バクランさんは、プーランクの曲も好きなようだ。