「ヘルニア闘病記・その2」2021年11月 2023.4月
「もう安心してください。今日入院していただきます。但し手術は5日後です。それまでは我慢していただくしかありません。」ここからが闘いの始まりだったとは、その時、知る由もなかった。
椎間板ヘルニアとは、腰椎と腰椎の間のクッション材の役割をする椎間板に亀裂が入るとその隙間から髄核というゼリー状の物質が外に出て、神経を圧迫する病気だ。私の場合は、臀部から足にかけて坐骨神経痛が出て、夜も眠れないという状態だった。
4人部屋の病室には、既に西日が差し込んでいた。入院することなど誰にも告げず、明日からの予約の患者さんを放り投げて来てしまった。この先、最低一か月は仕事ができないだろう。年明けまで入っている患者さんに事情を説明し、お断りの連絡をした。申し訳なさと不安が入り交じった。
夕食には殆ど手を付けず消灯になった。隣からは大きないびきが聞こえてくるが、こちらは一向に眠れない。横向きになってきつく膝を抱きかかえるとヘルニアが神経から離れるのか痛みみが弱まる。四つん這いが楽なのは分かっていたが、馬のように立ったまま眠れるはずもない。ベッドに備え付けられた食事用のテーブルに腹を預けると腕の支えなく四つん這いの体勢をとることができた。晩秋の夜長に布団が何度もずり落ち寒かったが、この状態で一夜をしのいだ。
結局うとうとすらできないまま、朝を迎えた。尿量の少なさが気になっていた。立っても座っても用が足せない。数滴出たところで、脚に激痛が走る。急いでベッドで四つん這いになり痛みを堪えた。こんなことを続けていたら膀胱が満タンになり腎臓までおかしくなってしまうのではと不安になってきた。医師に導尿を志願した。麻酔なしで管を入れると激痛が走った。パックに尿が吸い込まれていった。導尿の管を潰さないように注意しながら一日中四つん這いを強いられた。痛みを減らすために座薬を入れてもらった。すると四つん這いから一瞬解放された。ベッドの背もたれを直角に起こし、横向きで膝を抱えると束の間眠ることができた。しかし1時間後には薬が切れて万事休す。
3日目の夜が来た。孤独な夜を耐えなければならない。昨日と同じように座薬を入れるが、昨夜の体勢が見つからない。ベッドの角度が定まらないまま時間切れ。一睡もできなかった。この苦しみを表現するなら、脚の付け根から下を氷に浸けたままじっとしている。冷た痛くキーンと麻痺している感じ。手術まであと2日、体力が持つのか心配だった。つづく。