「これ、入ってみようか」
テツがドラム缶を蹴った。中学校の通学路。林道脇に赤錆びた空のドラム缶が転がっている。ドラム缶の一方が土に埋もれていた。
「きったねぇ」ジュンも蹴る。鈍い音がする。
「こういうのを見ると入ってみたくなるね」
テツはカバンを放り投げた。ドラム缶に頭から入って行く。ジュンもカバンを置き、ドラム缶に頭を突っ込んだ。
「あれっ、な、なんだ」テツが叫んだ。
「うわっ。これ、トンネルの入口?」
「わかんない。とにかく行ってみよう」
「奥は狭いけど、立てないことないね」
「暗い。こんな時はライターを。センコウに見つかると、『タバコを吸っているのか』って。親もこっぴどく意見されるんだよな」
二人はカビ臭い、湿った中を進んだ。
「あ、明かりが見える」
外に出ると草原だ。見たことのない場所。
子供達が缶蹴りをしていた。男の子は全員坊主頭で女の子はおかっぱ。みんな汚れた継ぎ接ぎだらけの服を着ている。五、六歳から十二、三歳で九人いた。その中の年長らしい男の子が、枯れ枝を掴むと身構えて聞いた。
「おめぇたち、どっからきた」
それに答えようとした時、サイレンが鳴った。一斉に子供達が近くの林に逃げ込んだ。
「おめえたち、敵国にやられるぞ」
男の子が怒鳴った。テツがトンネルに突進する。ジュンも続く。低空で飛行機のエンジン音が追いかけてくる。二人は壁にぶち当たりながら先を争って走る。
ドラム缶の外に出ると、もとの林道脇に戻っていた。……夕陽が真っ赤だ。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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