紫陽花記

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ショートストーリー

別館「銘茶処」

目玉占い

2020-02-27 09:31:54 | 風に乗って(おばば)
目玉占い


 磯に打ち付ける波頭が狂っていた。足元の水仙が、吹き付ける海からの風にしなり、一斉に花びらを震わせている。
 磯岩のその先に、果てしない海鳴りと雨粒を含んだ雲と、未知なる世界が広がっていた。
 人の気配で振り向いた時、そこに立っていた三十歳代半ばの女に頭を下げられた。
「あのう、占い師さんですか」
「いや」と手を振るお婆に、女は確信を持っているように、頷きながら言った。
「占い師さんと見ました。どうか私の夫の行方を占って頂けませんか」
 お婆が何度違うと言っても、女は後へは引かない。その身なりがその様に見えるし、何もかも見通すような目だものと、食い下がった。
 お婆は、何か言ってやれば気が済むのかも知れないと思った。それに、女の後ろにいる老人が、薄くなった頭をペコリと下げた目を見ると、哀しい色をしていた。
「あんたは大したものよなぁ。そう、この婆は占い師。手相ではない。目玉占いさ」
「目玉占い……」
 お婆は、女の前に立った。
 女の瞳は澄み切っていた。信頼しきった中に一途な願いがあり、それが強い光となっていた。
 お婆は、女が何を求めているのか、それを知らなければ何も言えない。気のふれたような女と父親らしい老人に、何を言ったら。
 重い灰色の雲から、小粒の雨が降ってきた。巻き上げるように風が舞う。
「濡れてしまうよ。あの茶店で一服しながらゆっくり占って見よう……」
 お婆は、その後は話しているうちに、何か言うことが見つかるだろうと思った。



夫源病と闘う

2020-02-26 09:02:05 | 「とある日のこと」2020年度
 
夫源病と闘う

      

 石蔵文信という医師が言い出したという「夫源病」。それは、夫との関わりの中から知らず知らずにストレスを抱え発症する病気らしい。それに自分も罹っているのではないかと気づいたのは、夫が完全に仕事から引退して3か月ほど経った頃。そうでなくても丈夫でない胃の具合が、完全に調子を狂わせていた。胃酸過多症なので胃酸の分泌を抑制する錠剤を1日1個服用していたが、それでも胸焼けが酷くなり、食事の内容によっては、食する苦しみさえ伴う始末。

はたと、気づいたのである。そうか、これはきっと「夫源病」に違いない。

以前と変わらない毎日と思っていたが、夫と一緒に摂る食事の内容と量が問題かもしれない。それに、以前より共有する時間が多くなって、些細なことでも言い合うことも多くなったような気がする。決定的な夫婦の揉め事ではないが、ああ言えばこう言う的なものだが、その様な些細なことでもストレスとなっているのかもしれない。

 気づいてから、食事の内容は勿論だが量も以前の自分のペースに戻す工夫をした。徐々に体重増加していたところから、徐々に減少してきて、今現在は丁度良い体重になってきた。ようやく「夫源病」から脱出できるかもしれない。イヤ待てよ。本当に脱出できて、何を食べても体調を狂わさないで居られるか? 疑問である。

思い返せば、仕事をしていた頃から胃の具合が悪かった。胃酸過多症、胃潰瘍、などとの病歴は絶えることは無かった。ストレスの多い中で暮らしているしかなかったからか?・・・・・
 
こういう体調の時だというのに、新型コロナウイルスが上陸して・・・・・
少しずつ活動範囲を狭めるしかない。
一番不利な条件に位置している状態だから・・・・・
句は寒い時期のモノ。

大寒や錆付く躰縮こまる

お坊様と踊る

2020-02-07 08:31:49 | 「とある日のこと」2020年度


お坊様と踊る

レッスン日がキャンセルとなって突然空いた日。考えた末に踊りに行くことにした。

 月1回程度お邪魔しているダンスホール。早い時間なので客はまばらであった。今日の予定表には、スタッフだけのはずだったが、受付で、「チャーターですか?」と聞かれた。

チャーターの男性は、中国地方からいらしたお坊様とのこと。ホールを見渡すと、窓際の席の端に、二十代半ばの五分刈り頭で細身の男性がいた。上下黒の服装である。

私は一旦、壁一面鏡張りの前の椅子に陣取った。チャーターに入れてもらうかどうか迷う。遠路はるばる来た人物らしいし、二度と踊る縁がないかもしれない。などと考え、チャーターの仲間に入れてもらうことにした。仲間は10人。右端から順に踊ってもらうのだが、自分のことはさて置いて、こちらは、やはりダンサーの技量を見定める目となってしまう。身長173cm位の立ち姿。背筋が伸び、ツンと突き出したヒップが如何にも技量の高さを予感させた。

ホールいっぱいにダンス曲が流れ始めた。3人のスタッフとチャーターしたお坊様のY氏が、それぞれの位置から踊り始めた。Y氏の背中のカーブと、崩れないホールドが、技量の高さを十分に示している。丁寧な踊り方と性格の良さそうなところが魅力。チャーター仲間はみな満足気だ。

 私の番になった。まずはワルツ。リラックスして踊ってもらうことができた。スタンダードは勿論だがラテンもしなやかな踊り方だ。仲間は皆楽しそう。アッっという間の時間。再度縁があると良いのだが。

私は想像した。きっと、黒の法衣姿も美しいに違いない。