紫陽花記

エッセー
小説
ショートストーリー

別館★俳句「めいちゃところ」

3 腹痛

2022-12-25 08:47:22 | 著書・夢幻★すみれ五年生



「すみれ、どうした?」
「すみません。お腹が痛くって」
「大丈夫か。先生も学生の時、試験というと腹が痛くなって、お袋に……あ、ごめん。さ、二時間目に間に合ったのだから、いいさ」
 夏木先生はすみれの頭を撫でた。
 すみれはクラスメートの視線を避けるように自分の机に向かった。千秋の横を通ったとき、千秋が言った。
「すみれ、先生に優しくされたかったんじゃないの。お腹が痛いなんて嘘でしょ」
 千秋の後ろの席の珠恵がすみれの右腕を突いた。
「甘えてんじゃないの」
 久美が威嚇するように顔を近づけた。
「調子乗ってると……」
「こら、お前たち、仲良くしなきゃ駄目だろ。さ、みんな席に着きなさい」
 夏木先生が大声で言った。

 すみれは、なんとなく下腹が疼いていた。仮病をついた罰だなと思いながら、給食を摂っていた。千秋がすみれと目が合うと、大げさに目をそらした。珠恵と久美が大声で笑った。いつものことだと思いながら、腹立たしい気持ちを抑えた。
 放課後の教室の掃除は、なるべくあの三人には近寄らないようにした。下腹の疼きは遠退いたようである。
 学校からの帰り道、またポピー公園に行こうと思った。学校から住んでいるアパートまで十五分かかる。公園はその中間地点から南に二十分くらい行った所だ。
 歩きながら下腹の痛みが強くなって、内股に生温いものが流れる感じがした。すみれは、方向を変えアパートに帰ることにした。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



___________________________________
俳句・めいちゃところ
https://haikumodoki.livedoor.blog/
写真と俳句のブログです。
こちらもよろしくです。

___________________________________

2 友達

2022-12-18 08:35:38 | 著書・夢幻★すみれ五年生


「だぁれもいない」
 すみれは小石を蹴った。
 アパートから遠く離れたポピー公園にはじめて来た。以前住んでいた家の近くにあった公園と同じような風景だ。
「学校はどうした?」
 すみれの後ろで中年の男が聞いた。頭の薄い背広姿だ。すみれは口を閉じたまま後ろにさがって身構えた。
「良い天気だな……」
 男はベンチに腰を下ろすと、改めてすみれの顔を見た。
「何年生?……ん、ああ、おじさん怪しげに見えるか。そうだろうな」
 男は声を出して笑うと呟いた。
「おじさんは暇を持てあましてね。失業中なんだ。いや、まだ分からないか意味が」
「分かるよ。だって、リュウちゃんもなかなか働くところが無くて失業中って言っていたもの。あ、今はパートに行っているけど」
「お話してくれたね。リュウちゃんって? お祖母さんなのか。学校は? どうした」
「行きたくないんだ。行かないとリュウちゃんがかわいそうだとは思うけど」
「二人暮らしか?」
「うん、越して来たばかり。友達はいない」
「友達はそのうち出来るよ。今日、おじさんと友達になったように。さ、学校へ行きな」
 すみれは、このおじさんは悪い人ではなさそうだと思った。ランドセルを揺すり上げた。
「学校へ行こうっと」
「ああ、そうしなさい。良い子だね」
 すみれは走りながら、先生になんて言おうか考えた。二時間目には間に合うだろう。お腹が痛くて遅れたことにしよう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



___________________________________
俳句・めいちゃところ
https://haikumodoki.livedoor.blog/
写真と俳句のブログです。
こちらもよろしくです。

___________________________________

1 すみれ五年生

2022-12-11 08:47:48 | 著書・夢幻★すみれ五年生


「学校に行かないと。遅れるよ」
 五年生のすみれは、祖母である竜子の横顔から窓に視線を移し、聞こえないふりをした。
「遅れるわよ、早くしなさい」
 竜子は、パートに行く時間が気になるらしく時計を見た。
 パパの遺影に手を合わせ、ゆっくりとランドセルを背負う。スローモーションで靴を履く。かかとを引きずって玄関を出た。
 竜子がすみれの後を追い玄関で見送った。
「気をつけて行ってらっしゃい」
 すみれは心の中で『行ってきます』と、言ったが言葉には出さなかった。
 学校近くの信号でクラスの女子三人と出会った。「おはよう」と、声を掛けようとしたら、三人が一斉に走り出した。
 竜子は五十八歳。すみれには『リュウちゃん』と呼ばせ、スーパーの品出し係をしている。仕事を終え、帰宅するのは午後の七時近かった。

「友達は出来たの?」
 すみれは聞こえないふりをした。
「先生は優しくしてくれる?」
 黙ってハンバーグを口に押し込んだ。ため息をついた竜子は、無言でご飯を口に入れた。
 父はいつ頃死んだのだろう? 物心付いたときには居なかった。
 母は新学期が始まる前に出て行った。竜子はすみれを抱きしめて言った。
「ママに幸せにって、言ってあげようね」
 それから竜子と二人で、この春ここへ引っ越してきた。前の学校でのいじめより、まだ、ましだと思うことにする。
 明日はきっと、友達が出来るかも知れない。少し離れた公園に行ってみよう。良い友達が出来るかも知れないから。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



___________________________________
俳句・めいちゃところ
https://haikumodoki.livedoor.blog/
写真と俳句のブログです。
こちらもよろしくです。

___________________________________

「とある日のこと」夢のあと

2022-12-04 07:14:38 | 「とある日のこと」2022年度


ダンスパーティーに参加した後に脇腹に痛みが出た。

ドレスや靴を入れた大きなスーツケースとリックで出かけたその日。
会場のホールは駅から2,3分と近いビルの2階。3階建てのビルなのでエレベーターやエスカレーターの設備は無い。大きなスーツケースを持ち上げて2階まで移動。それだけでも朝食で採ったエネルギーを使い果たした気がする。

ドアオープンは着いてから30分後。用意された更衣室用の部屋に、参加者の女性が一斉に駆け込む。
ドレスに着替えるのが一つの仕事。背中のファスナーを互いに手を貸し合って着替えます。
少しでもスタイル良く見せたいのは、○○歳になっても思うものですねぇ。

フリーダンスの時間から始まって、トライアル、デモンストレーションと続きます。
パソドブレを踊った白髪のBちゃん。ひざ丈のローズピンクのスカートが可愛かった。
ワルツを踊ったTさんは、花園のような赤いドレス。真っ赤なマスクが似合ってるって言われたとか。
そしてワタシ。
苦戦してようやく何とか踊れるようになった「エル・チョクロ」。
K 氏の力強いリードはワタシの気分をも盛り上げて、踊りきることが出来た。

そのような日が終わり、家路に着いたころから脇腹の痛みが出ていた。
最初は筋肉痛だろうから、そのうち治ると思っていたが、数日から1週間経っても痛い。
9日後、予約を入れていたホールへ出かけた。途中痛みがひどくなったら早めに帰ることにして・・・・

ところがどうでしょう・・・・・
K氏のレッスンを受け始めると、痛みはどこかへ飛んでいきました。
25分のレッスンが終わり、営業時間となってから3時間。脇腹の痛みは殆ど気になりません。
友達と一緒の帰りの電車でも一つも痛くなかった。
何ということでしょう?
好きなことって薬以上の効果があるものなのですねぇ。



___________________________________
https://haikumodoki.livedoor.blog/
俳句・めいちゃところ
お暇の折には、こちらへもぞうぞ

___________________________________