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🌞・紫陽花記

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★6 たっつぁん

2025-02-16 07:41:30 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度



「あのう、僕の名前を知っているということは、一度は会ったことがあるということですよね? どなたさんでしたっけ? もしかして鈴木さんですか?」と言う。以前、「たっつぁん」と呼んでいた竜次郎さんの探るような眼は、過ぎた年月の長さを思わせた。傍にいたダン友のみっちゃんが、「ほら、喫茶店のママよ」と言ってから、マイマイ橋通りの我が喫茶店のことを話すと、「えっ?ああ、そうか」と、記憶を手繰るように私を見つめた。

 たっつぁんは、私が社交ダンスに関わるキッカケをくれた人物だ。商工会議所に勤務していて、私の喫茶店の経理を受け持った人だ。私が自分で税務署提出書類などが出来るようになってから、会わなくなっていた。

「では、一曲」と、たっつぁんが立ち上がった。ずいぶんと痩せたようだ。ホールドも優しく力ない。グンと力強い踊り方が、優しい遠慮がちなリードに変わっていた。

「ごめんね、一曲で」
 たっつぁんがホールドを解いた。ここでも、年月の経過を感じる。誰でもそうだろうけれど、年齢とともに体力が減退して、あんなに女性から追いかけられていた身でも、自分の体調の具合から、自分から退くことになったようだ。

 私は何となく納得がいかない気分だった。いつまでも同じではないという現実。私自身に置き換えても、それは言えることだ。息子に嫁が来て、次々と孫が出来、その孫たちがすくすくと育ち、私の背丈より高くなった。家庭の中の権力は、いつの間にか息子夫婦に代わっている。我ら夫婦は小さく、そう、背丈も縮んで、小さくなっている。

「またね、たっつぁん」と、手を振って挨拶すると、「うん、また」と、たっつぁんの優しい声が返ってきた。



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