紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

11 仲間

2022-04-03 09:50:48 | 夢幻(ステタイルーム)23作


 文学仲間が訪ねて来た。厚みのある短編小説集の新刊を手にしている。目次には六作の題名が並んでいた。一作、四百字詰め四十枚から八十枚ほどの作品群だ。
「一作目は三ヶ月かかりましたよ。今は虚脱状態でいます」
 そう言ってから、
「書いていますか?」
 と、私に聞いた。
「ええ、ボツボツね」
「そうですか。次も書かなきゃあって思っているんですけど。苦労して書いても結果が……ねぇ。空しくなって。女房は反対なんですよ。金ばっかりかかるって」
「そうね。結局は自己満足で。それで良いと思っていないと、やっていられませんよねぇ」
「今は、売り込みに頑張っているんです」
「反応は如何ですか?」
「内容に特殊さがないと売れませんよ。でも、出版社も新聞広告を出したりしてくれていますんで、後はどうなるか」
「期待したいわね」
「贅沢な道楽ですよ」
 彼は、出版社へ持ち込んでから、打ち合わせや交通費などまでも含めると、千二百部作るのに百三十万円以上かかったと言った。

 私も同じその道楽をつい数ヶ月前にしたばかりだ。
「あ、これ、私の……」
「ああ、経営していた喫茶店を表紙にしたのですか。懐かしいなぁ」
「内容はちょっと重いですけど」
「読ませて頂きます。なんか、新たな力が沸いてきましたよ。会えてよかった」
 彼は帰り際に言った。
「僕も書きますから、書いて下さいよ」



著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


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