●〔番外〕小谷野敦「なんとなく、リベラル」(『文學界』2007年2月号) (2007.02.18読了)
小谷野敦の創作第2弾。市民図書館で借りて読みました。
主人公は岡村朋。T大の英文科から大学院へ進学。留学の後、助手を経て、私立大学の専任講師になります。在日韓国人で同じ研究者(美学専攻)の呉泰俊と結婚します。
題名は、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』のもじり(もちろん注もついてます)、内容的には筒井康隆の『文学部唯野教授』を連想させます。
モデルが気になります。
・小森陽一…「小森陽一は日本文学科の教授で、この大学出身ではないのに迎え入れられた。熱心な左翼で、朋もその授業に出てことがある。」として登場します。しかし、注には「ただしこの小説の小森陽一は文学部日本文学科の教授なので、同名異人である。」とあります。
・神保大学…岡村朋が専任講師として勤める大学。神保町にあるのは専修大学ですが、六大学のひとつらしいので近くにある明治大学のことでしょうか。
彼女が専任講師として赴任することになった時、英文科主任の高垣教授はこう言います。
「就職したら、相手のことがよく分からないうちは、学問の話は決してしないこと。……ここの大学で先輩や教授相手に話していたような調子でやっちゃ、だめだよ。神保大学生え抜きの先生もいるし、中には君が唖然とするくらい勉強していない人もいる。もし君の言ったことに相手がついてこられないと、恥を掻かされた相手は君を憎むようになる。だから、まあ相手のことがよく分からない内は用心するんだね。」(p.197)他にも「私大の学生の学力のなさには参ったが」という表現も出てきます。小谷野敦は私大など相手にしないということでしょうか。
・阪大教授で儒学研究の舵信行…「従軍慰安婦について、「男は植物と同じように、死ぬ前に花粉を撒き散らすのです」と放言していた」と出てきます。加地伸行のことです。
・宇都宮共和大学…朋の夫の呉泰俊が最初に赴任した大学です。当然架空の大学だと思っていましたが、実在する大学でした。なぜ、これだけが?
・菰田崇…朋の先輩。岡山の大学に赴任しますが、「逆だ。同僚のセクハラを告発したが、学部じゃあもみ消そうとするばかりなんで、腹をたてて辞めた。」ということで、東京に舞い戻ってきます。小谷野敦自身がモデル?。セクハラした同僚は「上村」となっていますが、これは小谷野敦がしつこく攻撃を続けている大阪大学のヨコタ村上孝之のことでしょう。
・茗渓大学…「茗渓大学教授の黒沢由美が来ていて挨拶した。黒沢は四十三歳の若さで教授だった。私立では珍しいことではないが、茗渓のような名門では異例の抜擢だと言われていた。」茗渓大学は筑波大学のこと(蛇足ながら付け加えると茗渓会は筑波大学(前身の東京高師、東京文理大、東京教育大を含む)の同窓会です)。黒沢由美のモデルはいるのでしょうか?
・稲門大学…当然、早稲田でしょう。
・『君達!』…『諸君!』でしょうね(笑)。