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超シノギング 真冬のシノラッセルと小雪と其れから

超シノギングとは、これまでのシノギングイベントに参加してくれたシノラーさんを選抜して、従来のイベントで体験してもらった様々な術を実践してもらう試みである。選抜人数は四人だけ。

超シノギングはイベントではないので、選抜メンバーを決してお客さん扱いはしない。目的エリアの地形図を読みどのように進むのか、どこで夜を凌ぐのかを共に考える。問題が起きれば共に考えて対処するシノラー同志として、一泊の本当のシノギングに出かけた。以下はその紀行である。

 

昨年の真夏に続き、真冬での開催、然も我々秘蔵の低山ながら確実に積雪が望める山域にて。兎角、過酷な超シノギングと相成る事は明白で在ろう。

東京からは暫しの小旅行にて上三依塩原温泉也駅で降りると、辺りは一面雪景色。先程までの温い空気は何処へやら、ぴんっと張り詰めた空気が包む。駅舎には我々のみ。雪が在る事への安堵と共に、不安も一層募る。何分初めての事が多い。準備を整えながら、何時もよりぎゅっときつくクナイの紐を結ぶ。心も落ち着いた所で普段よりも大きな地形図を一種二枚ずつ渡し、行程の概要を再確認する。今回臨むは駅舎より西側の山域。不測の事態に備えて、下りはA案とB案を用意想定とす。話し合う皆からは覚悟の表情が垣間見れる。さて、出立するとしようか。

除雪された車道から、一歩脇道へ入るとフミアト無き雪道が広がる。天気こそ晴天だが、週のはじめから雪はしっかり降っていた様で、早くもその恩恵を感じる。さくさくと足音を立て乍ら、更に身も心も整えていく。

次第に雪は深まり、早くもつぼ足気味。徐々に自らの置かれて居る状況を理解し始める。此れは嘸かし難儀するシノギングに成るで在ろうと。そうこうして居ると尾根取り付きの地点へ到着。今一度身なりを整え、心も備える。此処から凌の始まりだ。

絵に描いた様なシノギングの始まり、鬱蒼とした針葉樹林帯の矢鱈と急で息つく暇も無い様な登り。お陰で一気に毛穴も開き、気持ちも其の領域に入る。針葉樹を抜けると広葉樹が拡がり、辺りも拓け始めるも未だ急登は続く。時にはツヅラヲリに詰め乍ら、不明瞭な尾根から次第に明瞭な尾根へ繋がっていく。

しっかりとした尾根に乗るも、日当たり良い事も相まってか、少々愚図ついた雪面。唯、雪の下の地面は凍結気味にて、一歩踏み込んではずるっと滑る。ぎりぎりまで粘りたかったが、早くもアイゼンの出番と成りそうだ。然し乍ら、此処は急登の尾根。中々休止できる地点が見出せず、暫し慎重に登っていく。然して漸く休止適地へ辿り着く。奇しくも其処には立派なもみの木が鎮座して居た。

アイゼンを装着すると心機一転、先頭も交代し再始動。矢張りアイゼンの効果は絶大である。一気に歩みが早まるも、油断は禁物。つぼ足、シノラッセルは想像以上にダメージが蓄積されていく。故の先頭交代制でも在るが、後々の事も考慮し、余裕が在る時こそゆっくり、着実に歩みを進めていく。

等高線が全体的に緩む始点に到達した頃、正午を知らせるチャイムが麓より鳴り響く。理解はして居たが、思った以上に距離、標高を稼げ無い。此れはシノラッセル含むシノギングの定めで在る。

地形図を再度確認し、此の先の軌跡の想像を膨らませていく。時折挟む小休止では、各々小まめな行動食と水分補給を心掛ける。まだまだ先は長い。

非情にも深まる積雪と強まるシノラッセル。此の先も急登が続く上に、何よりも灌木含む五月蠅い木々が連なる狭い尾根。ワカンの装着は却って仇と成ると判断し、気合でシノラッセルを熟していく。

麓から見上げた此の尾根上で、ひょっこり目立って居たであろう立派な松の木を横に、無心に成り過ぎずも淀み無く歩みを進める。

漸くの目ぼしい山頂であるP一〇三四。其の手前までやって来た訳だが、正当に尾根を辿れば更に手前の小さな頂を経由して、直角に折れて又、北西に折れる地点に其れが在る。実際の地形を見ても隣に迫っている尾根が確認出来るので、其処を越えるようにトラバースで短縮を試みる。

其の実、此のトラバースが後に我々を奈落の底へ落とす行為である事は、此の時は誰も知ら無い。

時刻は既に十三時を過ぎて居る。ほぼ南側に位置する此の斜面は、日中の暖かな気候により雪面は溶け始め、実に愚図ついた緩い斜面と化して居た。一歩踏み出しては半歩滑り、二歩進んでは一歩下がる。其れでも中々急な斜面だ。三点支持も忘るべからず、此れらを繰り返し乍ら、一歩ずつ着実に詰めて行く。

暫く進んだで在ろうか。隣の尾根も越えて何ならP一〇三四も横目に越えたで在ろう。先の鞍部らしき所も見えて来たので、此処らで尾根へ回帰する。

乗った尾根は又、一層積雪を増し我々へ襲い掛かる。シノラッセルの再開だ。唯、此の登りを越えれば主稜線へ辿り着く。そう信じて、気合で登っていく。

可怪しいな。

確かに稜線へ出て直角に南南西へ折れる様な地点へ到達はした。然し乍ら、最後の尾根登りがこんなに短い筈が無い。そして其の先には未だ、明瞭に延びる北西への尾根が続いて居る。今一度地形図を確と参照する。怪しいのは先のP一〇三四へのトラバースか。道理は解せ無いが、未だ最後の登り尾根の途中である事は明白で在った。一同暫し途方に暮れる。と同時に、時計に目をやると十四時を前として居た。制限時間を意識し始める。一先ず、此処に留まって居ても仕方が無い、進もう。

失望感に打ちひしがれ乍らも、歩みを進める。

正直、以降は只管登り続けて居た。時間の事と、今宵の別荘適地が存在するのか。唯々其の事だけを考え、直向きに進んだ。すると雪庇が迫り出した壁の様な地点へ到達。此れを越えれば主稜線は間違い無い。そして其の先の山頂周辺が別荘地第一候補でもある。果して全容は如何に。

其の先の尾根の延び方、分岐の仕方。主稜線に乗った事を確認する。唯、山頂は地形図等高線以上に狭く灌木も目立つ。且つ当然乍ら風も抜ける地形。とてもじゃ無いが此処では無理だ。時は迫っている。間髪入れず其の先の白場、鞍部を目指す。稜線に乗った分、気は少し楽に成った。

此の鞍部も駄目だ。

否、厳密には五人張れ無くは無い。矢張り気掛かりなのは風で在る。更に先の山頂周辺は恐らく、先と同じ狭い空間で在ろう。唯、其の先にも同じ様な拓けた鞍部が存在する。延いては其の山頂を境に稜線も南南西へ折れるので、其れに寄って此の忌まわしき風も遮られるのでは成かろうか。淡い期待を抱きつつ、又登りに取り掛かる。

此処も駄目だ。先の鞍部よりも悪い。結局風も抜ける。

真に途方に暮れる。此の儘、適地が出て来無いのでは成かろうか。一瞬其の考えも過る。そして選択が迫られる。

張れ無くは無い最初の鞍部まで戻るか、更に先の鞍部を目指すか。

皆で話し合い、後者を選択す。吉と出るか凶と出るか。時刻は十五時過ぎ。最早此処からは気力のみで進む。

如何やら吉と出た様だ。

其の実、小吉くらいの鞍部地形で在るが、尾根上横一列に何とか五人分張れそうだ。本来ならば別荘とは言い難い場所だが、此れまでの行程を経た我々にとっては格別な別荘地で在る。雪上は此処からが長い。時刻は十五時半。さて、整地を始めるとしよう。

ショベルと足を駆使し乍ら、棺桶墓穴(親しみを込めた意味合いでの呼称)を掘っていく。此れが雪上ハンモック泊での肝と成る。

北西から抜ける風。此奴が非常に厄介では在るが、逆から抜ける事は無さそうなので、タープを其方側へ羽下げ、棺桶掘りも駆使して備える。

居住空間が確保されると、次は雪上を利用した土間作り。そして忘るべからず、今宵を凌ぐための薪集め。皆、保険の薪は持参して居るが、辺りを見渡せば現地にも良い薪が散見された。途中で薪を切らす事程、侘しい事は無い。

そうして皆が落ち着く頃には日もすっかり暮れて居た。一先ず良かった。安堵の念が一気に溢れる。

者に寄っては此処からも忙しい。余り水を担いで来なかった者は、焚火を落ち着かせると、雪を溶かしての水作りが待って居る。こんもりとクッカーに詰めた雪は、溶けても半分以下程の水にしか成らない。此れが予想以上に時間と精神を削る。唯、此れが済めば安住の時間と相成る。

そうそう、ご紹介が未だだったので今回の超シノギング同志のご紹介をつらつらと。

 

E氏。自身の歩き方を弁え、常に周り以上に地形図の確認をし、熟考し、備えていたのが印象的で在った。別荘は一番手前の一番の平坦地にて。積雪少ない場所にて背面側は雪ブロックを作り隙間風をしっかり凌いで居た。

I氏。既存の装備を駆使しながらも、我々の中でも最軽量に収め、其の利と随一の体力を活かして長く先頭シノラッセルを熟してくれた。別荘は手前二番目の雪庇も迫り出すしっかり積雪地にて。背面壁と庇部土間もこじんまりと構築されて居た。

S氏。淀みなく自身の歩き方を追求し、周りの気配りも忘れず、先頭に立った時の時間配分は素晴らしかった。別荘は奥から二番目のしっかり積雪地にて。棺桶掘りの利もしっかり活用し、庇側は跳ね上げて土間も開放的に構築されて居た。

H氏。此の山域の事前確認、想定もしっかりされており、常に先の事を考えて行動されて居た。別荘は一番奥の一番の積雪地帯にて。他の皆以上に棺桶掘りをし、土間も細かく作り、一際雪洞感を醸し出し構築されて居た。

此の同志達と共に、本日の労をねぎらい乍らも、各々が各々の良い様に、孤高に宵を凌ぐ。

明くる朝。

深夜から小雪が降っては止んでを繰り返して居た様だ。幸い風はかなり穏やかで在った。気温は思った程下がらず、少々拍子抜けと云った所か。

然し乍ら、改めて見ると在る意味良い別荘地では成かろうか。バラックのように密集するのも良いが、横一列でそれぞれの居住区を連ねるも又、乙で在る。

雪上の朝は早めに動き出す。整地がそうで在った様に、撤収も無雪期よりは時間が掛かる。一つ一つの行程を着実に熟し、立つ鳥跡を濁さぬ様、片付けを進めていく。

時刻は九時半。概ね予定通りに出立とす。小雪ちらつく中、或る者はタビガラスを身に纏い、颯爽と歩みを進める。

緩い鞍部と小さな山頂手前の急峻な登り下りが繰り返される。矢張り稜線尾根上は狭く、初日同様にワカンの装着は却って歩みを滞らせると判断、シノラッセルで只管進む。

幸いだったのは小さな先行者が小さなフミアトを残してくれて居た事。此れが多少成りにもシノラッセルの助けと相成った。

然し如何した物か。地形図以上に狭い尾根が続く。背の低い先行者にとっては苦では無いであろうが、背丈も有り、ザツクに寄って横幅も取られる我々にとっては、難儀せざるを得ない。時には木々に挟まり、時には跳ね返され乍ら、くねくねと試行し、フミアトを作っていく。

先述の通り、二日目下りの道筋は二案用意していた。P一〇九九手前より最短で駅舎寄りに下りるA案と、其の先のP九四六を経由して少し大回りに下りるB案。初日の行程も加味すると当然A案とする訳で、此処に乗りたい電車の時刻が十三時過ぎと成ると尚更で在る。

思いの他良い時分で歩みを進められて居る。其のP一〇九九手前に差し掛かると、本日の肝と成る急峻な下りと、不明瞭な尾根が緩く分かれていく地点へ分け入る。積雪量は最高潮に達しており、深い所では胸辺りまで沈む。逆に捉えれば、難儀はするがしっかり沈んで制動は掛かるので、慣れれば意外に卒なく下っていける。

案の定、此の先の尾根分岐はとても不明瞭で、危うく東北東に延びる尾根に乗りそうに成るも、早期に其れに気付いて軌道修正。事前に注意箇所として念頭に入れて居て良かった。此の難所を越えると、明瞭な尾根に乗る。

此の先、迷う事は無いで在ろう。安堵の気持ちと共に左右を見渡すと、初日登ってきた尾根と、下りB案としていた尾根が木々の合間からの覗く。随分と下ってきた様だ。

何時からか尾根上の細さは成りを潜め、しっかり間伐された夏道在るような尾根道へと相成る。

最後の分岐手前になると、集落の其れを臨む。何時だって始まりは長いが、終わりは寄り早いもの。

愈々佳境に入る。

最後の大きな下り。急峻な尾根を避ける様に、大きなトラバースで詰めていく。其の先、地形図では最後の楽園が如く白場が拡がって居る様だが。

其れは幻では無かった。此の二日間の我々を労うかの様に、其処には極上の楽園が拡がって居た。惜しむらくはこの地で一夜を過ごしたかった。其の実、かなり麓の方なので其れは叶わぬ夢では在るが、〆の面持ちとしては申し分無い。

此の楽園を後にし、最後の下りへ分け入る。何だか呆気無くも在るが、其れも其れ。こうして初日始点へぐるりと周回して戻って来る。

楽園を機に全てを出し切ったかの様に、淡々と歩みを進め、駅舎を目指す一同。右を見上げると、小さい乍らも長く難儀した此の二日間の山域が臨む。

前に目をやると、此の超シノギングで一皮剥けたシノラーが、各々の”先”を見据えて闊歩する様が垣間見れた。

孤高のシノラーは何を想い、何を感じたのか。

其れは己のみぞ知る。

其れで良い、其れが良いのだ。

決して笑ってはいけないやつ A面 B面

此処に、同志と共に孤高に凌いだシノラー達の雄姿を残す。

皆さん、お疲れ様です。そしていつも、ありがとうございます。

 

凌は美学

いつ何時でも所作、立ち居振る舞いを美しく

いつ何時でもあたふたせず、まごまごせず

道具に踊らされず

凌ぎ

美を追求すべし

 

 

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