昭和32年にカシオ計算機を創業した樫尾家の四兄弟のうち主に開発を担当したのが次男の樫尾俊雄です。
会社の基礎となった世界初の小型純機械式計算機「14-A」を始め生涯を通じて計算機、時計、楽器などの分野で数々の発明品を世に送り出して来ました。
2012年に87歳で没した後に、その住まいであった成城の自宅の一部分を「樫尾俊雄発明記念館」として公開しています。
個人的にカシオの製品は馴染みがありましたし、成城の豪邸の内部を見られるという両面で強く興味を惹かれる施設でした。
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成城学園前駅から西に15分ほど行ったところ。野川に面した国分寺崖線の際にその建物はありました。
崖部分を含めて800坪を越える敷地のうち、約300坪分の住居回りを除く庭園部分は「発明の森市民緑地」公園として公開されています。
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こちらが樫尾俊雄邸の母屋の玄関部分。ドーマー窓風の小屋根はステンドグラスを配した玄関の明かり取り窓。
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発明記念館はネットからの完全予約制です。指定の時刻にチャイムを鳴らして中に入れてもらいます。
公開は週に火曜~金曜の4日。一日に午前と午後の二組だけなので、申し込めるのはだいたい一か月後です。(ちなみに現時点だと最短で11月30日)
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玄関内部。私は一人で申し込んだので案内をしてくれる方と私のマンツーマンです。
誰に遠慮することなく質問できるので非常に快適。この玄関周りの造作と邸宅の話だけでこの場所で30分も話してしまいました。
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玄関に置かれている建築模型。右側半分が母屋で昭和47年に竣工。ターコイズブルーの屋根の六角形はクオーツ時計の水晶の形なんだとか。(諸説あり)
左側の人工芝の屋上部分がご家族のための増築棟。増築棟の左側が急峻な崖地で下ったその少し先が野川です。
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見学はお住まいだった部屋をそのまま活かして展示される5つのコーナーを番号の順に回ります。
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「発明の部屋」の、というよりこの記念館のメインの展示物、世界初の小型純機械式計算機「14-A」。1957(昭和32)年。
歯車式計算機の時代に俊雄が発明した341個のリレーで動く計算機は世界的に見ても群を抜く性能でした。
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14-Aは国立科学博物館やアメリカのスミソニアン博物館にも収蔵されていますが、ここの個体は現在でも完全に動作するよう調整されています。
一般向けの計算機で、数字の入力をテンキーでできるようにしたのも初。(それまでの計算機は桁ごとに0~9まで10個のボタンを並べていた)
まだ数字を表現するデバイスがなかったので、計算結果は桁ごとに数字を光らせて表しました。
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14-Aのキーデバイス「リレー」。計算中の音も小さな「シャカシャカ」というくらいで静かです。
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科学技術計算機の元祖、AL-1。1962年。個体歯車式の「プログラム」を差し替えることで様々な科学計算ができました。
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CASIOの基盤となった電子卓上計算機が並ぶ「数の部屋」の展示。
左の1967年のAL-1000が右のAS-8(1971)の大きさになるまでわずか4年です。集積回路の急激な進化によるもの。
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そしてその翌年1972年。1台1万円の価格で、一人が一台の電卓を持つことを当たり前にしたカシオミニが発売されます。
発売10か月で100万台売れたそうです。そういえばこの邸宅が竣工したのもその年でした。儲かったんですね。
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母屋の展示室から見る増築棟の屋上。樹がこんなに大きくなる前は余裕で富士山が見えたそうです。
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楽器の部屋。俊雄は音楽にも関心が深かったようで奥の電子楽器類の開発にも積極的に取り組みました。
1980年代のデジタルシンセ発展期にYAMAHA、KORG、Rolandと並んで(実際は並ぶというよりちょっと下)にCASIOのCZシリーズがありました。
デジタルギターやデジタルホンなどプロ用と言うより誰でも気軽に演奏を楽しめるためという目的が顕著だったので、楽器玩具に近い商品が目立ちました。
アイデアも機能も素晴らしかったのにその分プロの使用は少なかったという印象です。
1986年に発売された小型のサンプリングキーボードSK-1は16,000円という低価格で大ヒットしました。私が初めて買った電子楽器がCASIO SK-1でした。
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「時の部屋」の腕時計の展示。世界初のオートカレンダー機能から、電卓、住所録、万歩計、方位、気圧計など次々と腕時計に機能を追加行きます。
展示を見ながら、「この時代にここまで思いついて、どうしてそこからスマートフォンを発明できなかったか」と思ってしまいました。
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見学コースの最後は俊雄の発明のための書斎だった部屋。アキュフェーズを中心にした立派なオーディオ装置がありました。
13時に入館してここまでマンツーマンでほぼ2時間かかりました。(随所でビデオなどを見ている時間も含む)
見学に行かれる方はある程度時間に余裕をもって行かれることをお勧めします。
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最後は邸宅の庭だった「発明の杜市民緑地」へ。さっき見ていた展示室を外から眺めます。
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庭園の一部である崖線を下りて下から見上げる旧樫尾邸。喜多見駅から来るならこちらから入る方が近いです。
とても面白かった樫尾俊雄発明記念館。とても書ききれない数々の逸話から、一人の天才の姿を充分に想像することができる施設です。