なかなか強烈なお芝居を見させていただきました。ケラさんのお芝居はいつも強烈なんですが今回はまた格別でした。
視覚と聴覚と両方への刺激で脳味噌がシェイクされるよう。
私には時に刺激が強すぎて体力を奪われてしまうのですが、他では得難いこの刺激が癖になってまた見たくなってしまうという繰り返しです。
1950年代の後半から東宝が「社長シリーズ」として30本以上の映画を製作しました。主演は森重久弥。最近になってケラさんがTVでこのシリーズを見て、
「中学生のころには分からなかった面白さを理解できた」ことから今回の『社長吸血記録』が生まれたんだそうです。
とはいえケラリーノというフィルターを通せば、もはや動機となるサラリーマン映画の残骸すらなくタイトル「社長」がつくということだけがその名残です。
ステージ上に作られているのはビルの屋上。このビルに努めている男女社員たちがのんびりランチを食べているというところから話は始まります。
そこから先はなんだかもうよくわかりません。
この先ネタバレですと書いておきますが、ネタバレにすらなっていないようです。
・会社の社長は3か月前から失踪、もしくは行方不明。社長本人は最後まで登場しない。誰も吸血もしない。
・みのすけは実は警察で人をいらいらさせ、大倉孝二はいつも以上に切れやすい。
・屋上には過去に働いていた社員も集ってくるがそれが同じ世界なのかどうかわからない。
・会社の業務はいわゆる枕営業で何かの契約を撮ってくる悪徳な商売。屋上で色仕掛けの訓練に余念がない。
・その会社に騙された被害者たちがクレームに訪れる。時に被害者は凶暴な団体となって会社に襲いかかる。
・ベランダ越しに入り込めるマンションの一室に社長が軟禁されている。住人の大阪弁の女が屋上に向かって植木鉢を投げる。
・その部屋の住人に大倉孝二の妹(鈴木杏)が入りこんでいるが男にその気はない。
・時空を超えてそのビルの屋上にいる「よい探偵」の手帳には常に意味不明のことが書かれている。
・警備員にそこは危ないと言われると何もない場所で誰もが転倒する。
・昔勤めていた社員たちは屋上をオフィスにして新たに会社を作ろうとしているが何の会社か誰も知らない。
・奥のビルは時間の経過とともに徐々に傾いて最後嵐の後ではSF映画の廃墟のような街並みになる。
巧みな言葉遊びや悪意の凝縮された罵詈雑言、予想できない笑いが溢れて目を離せないのですが、次に移った途端に直前のシーンの意味がわからなくなります。
今、自分の記憶のためにお芝居の内容を思い出しているとき、頭の中に浮かぶ風景はまさに「夢」そのものです。
何かとんでもない夢を見て見醒めて、その夢の説明しようとしているのに説明できないもどかしさ。あの芝居を見た人の多くがこのもどかしさを感じているはずです。
舞台装置は薄暗いゴミだらけの屋上、細かいところまで写実的に作り込んでいるんだけど、視線と意識が届いていない全体の輪郭はもやもやとはっきりしない。
そのもやもやした風景もまさに「夢」そのものです。
今回、演出にプロジェクションマッピングが使われました。舞台装置と投映される映像が関係するのはずいぶん前から行われていましたが、昨今風のガチの映像は初めてです。
背景のビルの窓が歪んだり垂れたり。一番すごかったのは雷鳴と共に落ちてきた豪雨。何秒間かの間、それが映像だとは分からずに呆然としたままでいました。
騙されることの快感。これがこの午後のハイライト。
ケラさんは本当に驚くほどたくさんのお仕事をされています。twitterで今日は何をしているということをよくつぶやいているのですが、この夏は脚本、
監督をするテレビドラマの撮影などでさらに忙しそうでした。気持ちがある程度集中できて「社長吸血記」の台本書きと稽古が同時進行になったのはほとんど9月に入ってからのよう。
それからわずか3週間ちょっとで本が完成し、役者は膨大なセリフと複雑な動きを覚え、凝った映像と音楽が作られ複雑なパンフレットが作られ9月25日には本番の幕が開いていました。
もちろん製作担当が死ぬ思いでスケジュール調整をしているんですが、でもやっぱり驚くべき早さだと思う訳です。
そのスピードで作品を作りながら、それが今の最上級のレベルで仕上げられているという。まあとにかく驚くべき人と驚くべき作品です。
こないだ三谷幸喜の観劇リストをまとめたので今回はケラリーノ・サンドロビッチ観劇リストをまとめておきます。
【ナイロン定期】
2004 27th SESSION『消失』(2004年12月
2006 28th SESSION『カラフルメリィでオハヨ ~いつもの軽い致命傷の朝~』
2006 29th SESSION『ナイス・エイジ』
2007 31st SESSION『わが闇』(2007年12月
2008 32nd SESSION『シャープさんフラットさん』
2009 33rd SESSION『神様とその他の変種』
2010 35th SESSION『2番目、或いは3番目』
2011 36th SESSION『黒い十人の女 ~version100℃~』<市川崑監督の1961年映画作品>
2011 37th SESSION『ノーアート・ノーライフ』
2014 41st SESSION『パン屋文六の思案 ~続・岸田國士一幕劇コレクション~』(作:岸田國士)
2014 42th SESSION『社長吸血記録』
【ナイロン以外】
2005 砂の上の植物群(KERA・MAP #003)
2006 噂の男(パルコ、作:福島三郎)演出
2007 犯さん哉(キューブ)作・演出
2009 東京月光魔曲(Bunkamura)作・演出
2010 2人の夫とわたしの事情(シス・カンパニー、作:サマセット・モーム)上演台本・演出
2010 黴菌(Bunkamura)作・演出
2011 奥様お尻をどうぞ(キューブ)作・演出