ありゃりゃサンポ

近現代の建築と一日八千歩の散歩の忘備録。美味しいご飯と音楽と。
東京都全域を徒歩で塗り潰す計画進行中。

三原順の空想と絵本展@旧尾崎テオドラ邸

2024年04月02日 | マンガの原画展
2019年の散歩中にたまたま見かけたこの洋館。その時点では近々取り壊されて数軒の分譲住宅となる予定でした。
それから5年の間に著名な漫画家を中心とした保存活動が巻き起こり、巨額の費用を投じて買い取りに成功。改修期間を経て3月から一般公開されています。

あの日、門扉の向こうから写真を撮っていた時にはこの中を見られる日が来るとは夢にも思っていませんでした。

改修費用の捻出においてはクラウドファンディングにと高橋留美子など漫画家の融資を得てようやく開館にこぎつけられました。
建物を恒久的に存続させるために1階部分を喫茶室、2階をギャラリーとしてそれぞれで収益を得られるよう考えられています。
本来であれば公的機関か、企業のバックアップがあってしかるべき文化財保護案件ですが、残念ながら今の日本ではそれすら厳しい状況のようです。

コロニアル様式の建物では窓枠の段差が多ければ多いほど建物の格式が高いと言われています。(これ書いてるの4月1日です)

2階では現在三原順の原画展が開催されています。三原順と言えば「はみだしっ子」シリーズで1970年代後半から80年代にかけて絶対的な人気があった漫画家です。
1995年に45歳の若さで早逝したため、現在では当時のファン以外では知る人も少ないかも知れません。

グレアム、アンジー、サーニン、マックスという、それぞれの事情で親と別れた4人の子供が共同生活をするというお話。
それぞれにかなり偏った特徴のある性格であり、ファンの間でも誰に共感を得るかが大きく分かれました。ちなみに私はサーニン推しでした。Rさんはアンジー派閥。
同年代でも話が通じる方が少ない話題なので、夫婦で共有できるのがありがたい。

ギャラリーは2階の二部屋。けっこうたくさんの原画展に行っていますが、思い入れが深そう!という点ではこちらが一番だったかも。

学生時代に手に入れた単行本は、たぶん40代半ばで手放しました。
内省的なのに自己主張が強い登場人物の理屈っぽいモノローグがページを埋め尽くすこの物語を、大人になった自分が読み返すとは思えませんでした。
18~20歳くらいの私にはよい糧となりました。

原稿にはあるけど印刷された本にはないあれやこれやの書き込みが原画展の楽しみの一つです。

1982年発刊のまんが専門誌「ぱふ」4月号の81年まんがベストテン!という特集記事を見ると。
人気投票の第1位が「日出処の天子」、2位「エロイカより愛をこめて」3位に「はみだしっ子」となっています。
40年前はそういう時代でした。
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くらもちふさこ展@弥生美術館

2022年04月29日 | マンガの原画展
弥生美術館で開催中のくらもちふさこ展を見てきました。

3か月も前の1月29日から開催していて、5月末までの4か月の間の一か月ごとに原画を入れ替えて展示しています。
4月27日から第Ⅳ期として最後が始まったところ。マニアな人は4期全てコンプリートで見に行ったりするようです。

くらもちふさこは私が最も好きな漫画家の一人です。一番好きな3人まで絞っても残ります。
ただ、私が好きな他の有名漫画家と比べると漫画家本人についてほとんど何も知らない。今日に至るまでお顔が写っている写真を見たことすらありません。
「花に染む」を連載しているころに、駒込に在住していたということを巻末の資料で知りましたが本当に知っているのはそのくらい。
作者本人の存在をほとんど意識せずに純粋に作品とだけ付き合って45年ほどの付き合いになります。(「花に染む」の聖地巡りの記録はこちら

2階展示室の前にあったくらもちさんへのメッセージを書き込むボード。
展示室は全部撮影不可なので会場で撮った写真はこれだけです。

皆さんの熱い思いが貼られています。

よく見ると同業者の方もちらほらと見受けられました。

原画は想像を超えて素晴らしかったです。
魅力的なストーリーの中で人物の繊細な心情を抜群の画力で表現する。漫画かに求められることは本当に多いのですがその全てにおいて抜きんでている。
絵師としての向上心、画材や表現方法への探求心も今まで見て来た原画展の中でも特別に強い。
コーナーごとにその時期の概略が書かれているのを読んで、初めて作家本人のいろいろな情報を得ました。
50年の仕事期間を通してかなりの期間で体調不良の問題を抱えていたことを初めて知りました。そうだったのか。

別マ期の終盤の傑作「海の天辺」。1988年‐90年。この後、「チープスリル」と「おばけたんご」を残して別冊マーガレットを卒業します。
この後はコーラスに移って絵柄をがらっと変えて「天然コケッコー」を始めます。「海の天辺」はいわば少女向け漫画の卒業制作、集大成のような作品です。
Ⅳ期の展示で単行本1~4巻のカバーイラストを1枚の原画で見られたのがうれしかったです。
他のカバー原画と比べてこの原画がすごく小さくて、B6の単行本サイズでほぼ原寸か?という大きさだったのに驚きました。

これを機会に家にある単行本をまた全部ゆっくり読み返してみようと思っています。
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『喜国雅彦の個展』@東京古書会館

2018年12月10日 | マンガの原画展

神保町の東京古書会館で喜国雅彦さんの初めての原画展を見てきました。

1980年代後半、相当な数の週刊漫画を読んでいた私ですが、後発で隔週誌のヤングサンデーは読んでいませんでした。
それでもヤンサンに連載されていた「傷だらけの天使たち」が目に入らないはずもなく、単行本だけはしっかり持っていました。

コンパクトな会場で出されている作品も限定されたものでしたが、時代時代ごとにどれも素晴らしいものでした。これがカンバスに書かれたとは知らなんだ。

ミステリー小説の表紙になった数々。1枚15万円で原画が販売されていましたが全部売却済みのようでした。

さて。私はこの日もうひとつ目的がありました。喜国雅彦さんの奥様はやはり漫画家の国樹由香さんです。
2013年に私が「夢舞いポタリング」という都内を42.195km走る自転車のイベントに参加したときに国樹由香さんも参加されていて、しばらく同じ集団で走っていました。
かわいいワンコのイラストのゼッケンを背中につけていらっしゃって、少しお話もしました。ただ、その時には漫画家の国樹由香さんだとはまったく知らなかったんですよね。
そのあたりのことはこのブログでも書きましたが、もし本人に会えたらその話をしたいなと思ってました。

幸いご夫妻ともギャラリーにいらして、すきを見て声をかけてその話をしたらとても喜んでいただけて。その時乗っていた自転車の話とかも伺えて。記念写真も撮っていただけました。
めっちゃ明るくて素敵なご夫妻で、私は心温まる思いでスキップしながら会場を後にしたのでした。

お土産に好きなのを持ち帰ってよいとされていた「傷だらけの天使たち」の写植。ブログで見せるつもりでしたので、差し障りのないセリフを選ぶのに苦労しました(笑)

2013年の国樹由香さんの後ろ姿。
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マカロニほうれん荘展 1978年少年マンガを振り返る

2018年05月30日 | マンガの原画展

中野ブロードウェイの2階にある小さなスペースで開催されている「マカロニほうれん荘展」、今週でおしまいということで急ぎ見てきました。
1977年の連載開始直後から先進的で破壊力抜群のなギャグとPOPでかわいい絵柄、ロックミュージックや自動車、バイク、兵器などのマニアックな描写でギャグマンガの頂点を極めました。
しかしそのテンションを保ったまま週刊で書き続けることに徐々に困難が生じ、編集部との軋轢もあって3年に満たない期間で連来は終了。
それ以降、目立った活動がなかったことから80年代にはすでに伝説か幻の漫画家という扱いだったと思います。個人的には秋田書店に潰された悲劇の天才という印象ですが実際はどうか知りません。

原画は撮影し放題でした。ほとんどアシスタントを使わずに一人で書いていたそうです。

これが連載の最初、かな? 当時からオリジナルな絵柄でしたが、この絵柄を真似するフォロワーも見受けられなかったので今でも独創性を強く感じます。
江口寿史や大友克洋なんかの絵はさんざん真似されたのに、鴨川つばめを真似しようとする人が出なかったのは不思議です。そういえばパイレーツも同じ1977年から連載開始でした。
そのころ私は高校生活の真っただ中で部活に明け暮れながらも主な週刊漫画雑誌は毎週全部読んでいました。確かクラスの中で誰がどの雑誌を買うか分担があったはずです。

当時どんな漫画が連載中だったのか少し見てみましょう。

1978年の少年チャンピオン。

ドカベン 水島新司
らんぽう 内崎まさとし
750ライダー 石井いさみ
マカロニほうれん荘 鴨川つばめ 
ブラック・ジャック 手塚治虫 
がきデカ 山上たつひこ
レース鳩0777アラシ 飯森広一
東京レスキュー 牛次郎×筒井昌章
花のよたろう ジョージ秋山
ゆうひが丘の総理大臣 望月あきら
月とスッポン 柳沢きみお
ロン先生の虫眼鏡 光瀬龍×加藤唯史
しまっていこうぜ! 吉森みき男
エコエコアザラク 古賀新一
スーパー巨人 滝沢解×森村たつお

このころ少年チャンピオンは200万部を超える部数で少年誌ナンバーワンの座にありました。

1978年の少年サンデー

がんばれ元気 小山ゆう
いたいけ君 赤塚不二夫
赤いペガサス 村上もとか
まことちゃん 楳図かずお
ヒット・エンド・ラン あや秀夫
男組 原作・雁屋哲 作画・池上遼一
おやこ刑事 原作・林律雄 作画・大島やすいち
プロゴルファー猿 藤子不二雄
力童くん バロン吉元
英雄失格 原作・梶原一騎 作画・やまさき拓味
できんボーイ 田村信
ダメおやじ 古谷三敏
サバイバル さいとう・たかを

私は「がんばれ元気」に夢中になっていて、たぶんサンデーを買う担当だったと思います。

1978年の少年マガジン

青春山脈 かざま鋭二
おれは鉄兵 ちばてつや
フットボール鷹  川崎のぼる
少年忍者風よ!  横山光輝
多羅尾伴内 石森章太郎
釣りキチ三平 矢口高雄
うわさの天使 とりいかずよし
三つ目がとおる 手塚治虫
大器のマウンド  岩崎健二
手天童子  永井豪
おバカさん  赤塚不二夫
四角いジャングル 中条健
エメラルダス 松本零士

1978年の少年ジャンプ

サーキットの狼:池沢さとし
すすめパイレーツ:江口寿史
ホールインワン:金井たつお
こちら葛飾区亀有公園前派出所:山止たつひこ
ピンボケ写太:ビッグ錠
巌流島:アラン瀬下:読切
1・2のアッホ!!:コンタロウ
家族動物園:飯森広一:新連載
ドーベルマン刑事:平松伸二・武論尊
リングにかけろ:車田正美
孔子暗黒伝:諸星大二郎
悪たれ巨人:高橋よしひろ
東大一直線:小林よしのり
朝太郎伝:中島徳博

こうやって眺めてみると、確かに全部読んでいたなあと思い出します。そしてギャグマンガに限って言えばやはりマカロニとパイレーツが圧倒的な輝きだったと思うのです。



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『描く!』マンガ展 川崎市民ミュージアム

2016年08月08日 | マンガの原画展

2015年8月の大分から始まって、1年かけてやっと関東地方までやってきたマンガ展。楽しみに待っていました。
漫画家個人に焦点を当てた展覧会はここ数年間でとてもたくさん見られるようになりました。「美術展」としてけっこう集客なども良いのかも知れません。

今回の展示は一人の作家ではなく、日本で発祥して拡大し円熟期を過ぎて未来に向かって変化し続けるマンガそのものの歴史を振り返りながら
さらに漫画家固有の描線が表す独自の記号について、主に田中圭一が考察を表明するという構成になっています。会場内は一部を除いて撮影可。
上の絵はさいとうたかをの無用の介の1コマ。人物や背景に動きを与えながら、一番近距離にある折れた刀の静止っぷりが面白い。


「田中圭一の考察」はこんな風に作家ごとに1,2枚のパネルで。
ここでは、漫画家の個性を決定する最大の要因が描線の太さと抑揚にあること、描線の内側と外側の距離感は描線の太さが決めることなどを語っています。
陸奥A子コーナーで陸奥A子への着眼点と言いながらサンプルが山本直樹と松本零二なのがイイね。
書き忘れましたが今回取り上げられている作家は赤塚不二夫、石ノ森章太郎、手塚治虫、藤子不二雄Ⓐ、水野英子あずまきよひこ、さいとう・たかを、島本和彦、
竹宮惠子、平野耕太、PEACH-PIT、陸奥A子、諸星大二郎。



諸星大二郎のコーナーを鑑賞する子供連れ一家。今の小学生にどう見えるんだろうな。あまりマニアックな小学生に育たないことを祈ります。


島本和彦コーナー。描け!描け!とうるさいんですが、やっぱり面白くて壁に沿って吼えろペンをずっと読んでしまいました。やっぱり全巻揃えようかな。


陸奥A子に戻りますが「黄色いりぼんの花束にして」のクライマックスシーンの絵で、ずいぶんはっきりした形のホワイト修正を見ることができました。
堀口くんと黄菜ちゃんの雨の初デートで傘を差しかけている場面。どうやら最初は傘を自分で差していたようですね。ずいぶんとラフな消し方ですが、、、

実際のマンガではこんな風になってます。さすがに腕の角度が変わった部分のホワイトは不自然に見えてますね。こういうのを知ることが原画を見る楽しさの一つ。


それほど大きな展示スペースではありませんが、あっちもこっちも興味津々の展示物なのでけっこう時間がかかりました。
絵をかかない人のマンガ評論っていっこも面白くありませんが、やはり田中圭一みたいなイタコ体質が本人の意識しない部分まで掘り進める解析は面白い。
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萩尾望都SF原画展+ヤマザキマリ対談

2016年04月17日 | マンガの原画展

漫画の原画展シリーズ、そのいくつめか? 今回は漫画家としては我が家で最大の敬意を払われている萩尾望都さん。

以前、陸奥A子の原画展の時も書きましたが、私にとって高校時代、少女マンガへの入り口でありそして結局はその入口が最終到達点でもあったという、そんな存在。
今回の原画展は、数多のジャンルの作品の中から「SF」に絞って集めた200点の原画たち。自身の作品、他人に提供したカバーイラスト、挿絵などいろいろと。
カラーの原画がとても多くて、純粋に尋常でなく美しい絵画展として楽しめました。
上の写真は河出書房発刊の今回の図録ですが出来の良い画集として是非一家に一冊置いておきたい一品です。実際には展覧会よりこの画集の企画が先だったとか。

漫画原画展の定番となっている入口外の記念写真コーナーのレッド星のパネル。

原画を堪能した後、近くの回転寿司でお腹を満たしたところでRさんとはお別れ。
私は駅の反対側の武蔵野公会堂で19時から行われるヤマザキマリと萩尾望都とのトークイベント見ます。

なぜ二人で来なかったかと言うと、入場は応募で抽選だったのですがハガキ2枚出して1枚しか当たらなかったので。それで私に行ってきなよと。くうう。
トークの最初にヤマザキマリさんが言っていましたが、倍率が3.5倍だったそうです。


昨夜のステージ写真はヤマザキマリさんの今朝のツイートから。武蔵野公会堂の座席数は350。びっしり。男性比率は1割くらいでした。やっぱそうか。
ナマ萩尾望都さんは2014年の西原理恵子の画力対決以来。そういえばあの時も終盤に客席にいたヤマザキマリもステージにあがってギムナジウム仕様のルシウスの絵を描いたりしていました。
大竹しのぶばりにたゆたう時間軸で生きている萩尾望都さんと、有り余るエネルギーを排出するように高速で話すヤマザキマリさんとでそもそも対談が成立するのか、
始まる前は若干の不安があったのですが、まったく無駄な心配でした。ことSFに関して、中でもお勧めの作品を語る萩尾望都さんは身振り手振りも踏まえて大熱弁です。

事前に提出してあった好きなSF作品から話を拾っていくような流れで計画されていましたが、半分くらいの時間はSFに限らず宗教、絵画、歴史など
共に読書家で博識な二人に相応しい自由な比較文化論から漫画製作上の内訳話など。350人の聴衆を楽しませるサービスも忘れない素敵な対談でした。
ちなみにSFとして語られたのは「アシモフ、ヴォークト、ブラウン、ブラッドベリ、ハインライン、クラーク、ル・グイン、小松左京、光瀬龍、安部公房、
ホールドマン、O・S・カード、ピーター・ワッツ、ミエヴィル、カルヴィーノなど」(作家の北原尚彦氏のツイートから)
創作活動をする人にとって、史実(と言われているもの)や過去の研究結果の制約を一切受けない自由な世界を構築できるSFというジャンルはとてもありがたいよう。

一番盛り上がっていたのが、ヤマザキマリが一番好きな藤子不二雄作品として話そうとしていた21エモンの話を、先に萩尾さんに出されてしまった時。
ちなみに21エモンは私にとっても未来を舞台とした創作物として人生で最初に目にした作品で、大好きでしたので一緒に盛り上がれました。

そもそも3月にダミアンちで教えてもらわなければこの展覧会の開催自体知らなかったんだよな。ありがとうございます。
それから応募はがきを出してくれた上に当たった1枚の入場券をゆずってくれたRさんにもありがとう。おもろかったよ!
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浦沢直樹展 描いて描いて描きまくる

2016年03月13日 | マンガの原画展
世田谷文学館で開催中の浦沢直樹の原画展に行ってきました。
漫画の原画展ってかつてはデパートの片隅でやっている催事のようなイメージでしたが最近は美術展の1ジャンルとして確立しつつあります。集客もいいんだろうな。

浦沢直樹との出会いは「YAWARA!」から。
スピリッツとビッグコミックオリジナルに平行して2つの作品が積載され続けていて、そのどれもが6年から9年の長期連載でしたので、そのきれいな絵は常に目にしていました。
かと言って、作品として世間が騒ぐほどには夢中になれなかった物が多いのも事実で、「MONSTER」「20世紀少年」「PLUTO」などの長く複雑な構造の作品は私には少し重かった。
なのでかつて単行本として持っていたのは「YAWARA!」「パイナップルARMY」くらい。あと大友克洋の影響の濃い「NASA」「踊る警官」か。今ではすべて手放して残っていません。




会場はかなり混雑していました。もともと混雑が予想されたので土日の入場券は入場日と時間をあらかじめ区切って販売していたほどです。

とてもたくさんの原画が、一話まるまるとか、中には単行本1冊分全部とか展示されていて見ごたえがありました。
どの1枚から見始めても次を読み進めてしまい止まらなくなるという読者を誘導する力がすごい。「Happy!」の一話ではその十数枚の一連の原画を見ただけで涙が出てしまいました。
登場人物のキャラクターの強さ、主人公の女の子のかわいさ、それぞれの演技と魅せる演出と。エンターテインメントとしての漫画の全ての完成形がそこにありました。

原稿としての美しさや完成度も、今までに見た原画展の中でもピカイチで、逆にそれが理由で原画を見る驚きと喜びが薄かった。
つまり原画の完成度が高すぎるので、それが製版されて印刷されても絵としての価値がほとんど落ちない。
他の人の作品では、原画では雑に塗られていたベタやホワイトが印刷されることでそれが分からないような仕上がりになっていたり、
週刊誌で見た漫画ではこのように表現されていた部分、実は原画はこうなっていたんだ!という驚きが少なからずあるんですが、今回に関してはそういう場面が少なかった。
浦沢直樹が表現したいことは、きちんと大量生産された商品にもきちんと残されていると。まあそんなことを思いながら原画を眺めておりました。

小学生のころから学生時代、プロに至る前の様々な資料はとても面白い。9歳の時から上手すぎる絵。作品として完成させる持続力。生まれながらの漫画家だったことが分かります。
そしてこれら少年時代の作品も将来プロとして大成した時にに向けて残しておく価値があるということが本人にも重々分かっていたんじゃないかな。

世田谷文学館のとなりは大きなゴルフ練習場だったんですが、この1年間のどこかで営業を止めて更地になっていました。またでっかいマンションが建つんでしょう。
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江口寿史展 KING OF POP

2016年01月17日 | マンガの原画展

12月の初旬から開催していた江口寿史展。平日に仕事の途中で行きたいと思いつつなかなか叶わず。いよいよ終盤が近づいてきたので諦めて土曜日に行ってきました。
場所は川崎市民ミュージアム。菊竹清訓(1988) 武蔵小杉からバスで10分。遠いなあと思っていましたが湘南新宿ラインのおかげで意外とあっさり到着しました。


川崎市民ミュージアムは等々力緑地という大きな複合公園の一角。野球場、サッカー場、巨大な体育館などと並んでありました。川崎市なかなかリッチです。
チケットを買って会場に入ると階段状に観覧性のあるアトリウムで江口寿史さんによる「5分スケッチ」が行われていました。
今日は開催中に何度かあるスケッチのある日だったんですね。偶然でしたがラッキー。でもとりあえず先に展示を見ます。


入口にある撮影してもよいコーナー。最近必ずこういうのありますが、もう少しお金かけて企画して欲しいです。

1977年に少年ジャンプ連載の「すすめ!!パイレーツ」でデビューした江口寿史さん。当時高校2-3年で少年漫画は生活の一部。
今までの漫画と一線を画すスピードあるギャグの連続、流行の音楽や映画、TVドラマを取り入れたパロディ的な笑い、そして何より可愛い女の子とそれを紡ぐ線に魅了されました。
パイレーツ終了後も少年誌、青年誌で作品を発表しますが、おそらくは常に高い完成度を求める自身の性質と、将来のサボリ癖により休載は日常的に、連載途中で放置の作品も多数。
原稿が取りにくい作家としてキャラクターが固定化して行きました。
漫画作品が拡大しない代わりに、年代ごとにますます高まる画力、デザイン力、センスを生かしたイラストの仕事が増えていき、企業に依頼されるCM作品が仕事の中心に。
とはいえ、青年誌などに単発で載せられる漫画はやはり面白く、後にそれらをまとめた単行本が我が家の本棚を飾ります。


会場内はもちろん撮影不可なので、外で売られていた複製原画を。本人が音楽にこだわりが強いので楽器にもリアリティが出ます。
展示されているイラストは本当にきれい。一枚の絵として見飽きることがありません。70年代の原画も多数あって見ごたえのある展示でした。


会場の外での5分スケッチコーナーへ。抽選で選ばれた幸運な何人かが目の前で似顔絵を描いてもらいます。


横のスクリーンに書き進んでいる手元が写されています。何もなかった白い紙の上に生き生きとした人物画姿を現すのは魔法のようです。


我が家の江口コーナー。さすがにパイレーツあたりは処分されてしまいましたが、短編集を中心に杉浦日向子や萩尾望都の作品の陰でしっかり生き残っています。

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陸奥A子×少女ふろく展 @弥生美術館

2015年11月07日 | マンガの原画展

弥生美術館で12月まで開催されている陸奥A子さんの原画展に言ってきました。最近、マンガの原画展が美術館で見られること多くなりましたね。


弥生美術館は東大の本郷キャンパスの裏手の辺り。
鹿野 琢見(かの たくみ)さんという弁護士の方が収集した高畠華宵や竹久夢二の作品を展示するために私費で設立した美術館だそうです。
明治大正昭和の「レトロ・浪漫な作品」を中心に年に作品の収集と企画展を続けています。

今回は陸奥A子の原画と同時代の少女雑誌のふろく。

5月にリフォームのための断捨離でたくさんのマンガ本を捨てました。その時に古本業者が引き取りに来る直前で「だめだ、やっぱり捨てられない」と
とっておくことになった30冊の少女マンガの中に陸奥A子の代表的な4冊が含まれていたのですが、その時は半年後にその原画を拝み見ることになるとは
まったく思ってもいませんでした。思いとどまってよかったです。

私の最初の少女マンガ体験は高校一年の終わりくらい。1975年~76年。管弦楽部の女子部員から勧められてはまりました。
その流れは2つあってオーボエの子から「りぼん」と「別マ」の集英社ライン。セカンドバイオリンの子からは「別コミ」の小学館ラインと
けっこう雰囲気の正反対のマンガを次々と借りて読んでいたわけです。
大島弓子や萩尾望都のやや難解で文学的な世界に頭を悩ませながらも引き込まれたり
かたや田渕由美子や陸奥A子のおしゃれで乙女チックなラブコメに胸ときめかせたり、無駄に感受性の高かった時代にいろいろと刺激を受けました。

さて、その原画ですがやはり一時代を築きその後も名を残す方の原稿は美しいですね。
展示されている最初期(1972-3年)の作品ではさすがにちょっとその一時代前のマンガの絵柄をベースにしているのですが、
その1年後くらいには完全に「陸奥A子スタイル」を確立していてちょっと驚きました。
内気で「ドジ」で一途な女の子と優しくて照れ屋で少しぶっきらぼうな男の子との小さなささやかな恋物語。
背景はそれが都会であっても郊外であっても木や木綿の手作り感にあふれていて、今に繋がるロハス系ナチュラル志向の原点のようです。
棒のような手足を持つ登場人物の着ているものがアイビー基調なのもこの時代ならではです。

今、これを書きながら「おしゃべりな瞳」を出して眺めています。
いきなり最初の見開きから「イジツ」「グスッ」「ウフッ」などの擬音があって懐かしいですね。
つきあっている仲の良いカップルの所に別の誰かが(長く離れていた幼馴染とか家庭教師とか美人の図書委員とか)が現れて
なんやかやと誤解が生じて気まずくなるんだけどなんやかんやで誤解が解けてやっぱりラブ? みたいな話の連続。
今読むのは正直ちょっときついですが、それでいいんです。ビバ70年代。ビバA子たん。

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川崎のぼる展 三鷹市美術ギャラリー

2015年10月08日 | マンガの原画展

私の少年漫画の原点、川崎のぼるさんの原画展を拝見しに三鷹まで。

はっきりした記憶ではないのですが、私のマンガのスタートはたぶんサンデーでした。
wikipediaの年度ごとの連載一覧を見ていて、連載で読んでいた一番古いところの記憶が1967年です。6歳から7歳になるところ。
その部分を転載します。

この中の全部がわかるわけではありませんが、青の6号、パーマン、アニマル1、おらぁグズラだど、どろろ、もーれつア太郎、あかつき戦闘隊に関しては強烈な印象があります。
やはり小学校1年でほぼ毎週サンデーを読む子供だったようです。兄が買っていたという可能性もあります。
で、この中にある「アニマル1」がおそらく人生初のスポーツ漫画だったのではないかと思っている訳です。

6人だか7人の兄弟が船で暮らしているのですが、その生活感がなんともほのぼのした絵で好きでした。煮物の湯気とかが子供心にたまらんかった。

それからほどなくして巨人の星で一躍日本中に名を馳せ、超売れっ子として最盛期には週刊マンガ3誌に同時連載などという恐ろしい期間もあったようです。

とにかく漫画雑誌を買えば川崎のぼるの作品が何かしら載っているのが当たり前というのが私の少年時代でした。
そのせいか川崎のぼるという人物やその絵にたいして特に考えたこともありませんでした。手塚治虫ほど崇めたてられることもなく、ちばてつやほど愛されることもなく。

今回初めてその原画に接して非常に強い感銘を受けました。まずはなんと言っても画力。そしてデザイン力。それからマンガへの情熱。
出来の良い図録を買いました。その巻頭で12ページにわたって自ら漫画を描き始めてから今日に至るまでを文章にまとめているのですが、まさに体を削ってのマンガ馬鹿人生。

子どもの頃ストーリーの点かにばかり心を奪われて読み飛ばしていましたが、それを伝える一コマ一コマにこれほどの労力とセンスが込められていたとは。
やはり昭和のマンガはすごかった。感服&堪能して参りました。10月12日まで。50歳以上には超おすすめ。

展示の外にあった撮影コーナー。星一徹の有名な(でも原作では一回しかやっていない)ちゃぶだい返しの場面。この絵の後ろに回って飛雄馬を張り倒すポーズをして写真を撮るところです。


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岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ 世田谷文学館

2015年02月10日 | マンガの原画展

日本SF展以来の世田谷文学館へ。明大前のメディアボードはポスターで埋めつくされていました。


会場入り口。沢尻エリカさんの花が一番目立つところに。

岡崎京子作品とどのように出会ったかの記憶は曖昧です。
単行本リストによると最初の本が1985年の『バージン』。うちにある単行本の中では一番古いのが1988年の『TAKE IT EASY』ですから
おそらくデビュー2,3年後に評価が高まっていく中で書店か、雑誌の書評などで見かけて手に取ったのだろうと思います。
桜沢エリカ、安野モヨコなどの作品と並んで私が読んでいた青年漫画誌に掲載されることも多かったので、こちらから積極的に追わなくても
自然に目に入ってくる存在だったかもしれません。

時代はバブル華やかなりし頃、トータルなイメージがおしゃれサブカルだったので、真逆にいる私には同時代的共感というのはなかったのですが
軽やかな描画、はっちゃけているのにどこか文学的な台詞などに惹かれる部分がありました。


記念写真コーナー。

展示はとても濃厚で面白かったです。私が仕事でちょくちょくお邪魔するデザイン事務所が展示と図録をやっていました。
原画の前にあるガラスに貼られたモノローグの文字の影が原画の上に落ちている展示など、おおっという演出もあり。
A2のコート紙を多用したせいでいまどきの本としてはあり得ない重量になった図録もとてもよかったです。

彼女の才の大きさを存分に感じさせてくれる展示でしたが、そこで受ける感銘の大きさがそのまま事故への哀しみの大きさとなります。
あれから18年。近年では小沢健二のライブや(2010)、映画『ヘルター・スケルター』の試写会に行ったりと
快復の度合いが進んでいるニュースに触れるのはうれしいことです。どうか(祈)







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ちばてつや原画展@池袋西武

2012年11月22日 | マンガの原画展
池袋の西武デパート別館(無印良品2F)で開催されている「ちばてつや」原画展に行ってきました。


ちばてつやと言えば「あしたのジョー」。
私が7歳から13歳までの連載であり、当時は大学生から若手サラリーマンを中心に大ブームを巻き起こしていました。
連載中の少年マガジンはもちろん読んでいましたが、心底馴染んでいたわけではありません。
あまりにもド・シリアスで、かっこいいんですが小学生にはちいとハード過ぎ。

私が本当に夢中になっていたのは、ジョーが終わって数か月後に連載が始まった「おれは鉄平」でした。
高校生のころには発売されている単行本のどのページを開いても、
手で隠した吹き出しの中のセリフを全て言えるというほどのハマリっぷり。
今では考えられませんが、当時は記憶力も良かったようです。

他には「紫電改のタカ」「蛍三七子」「のたり松太郎」「男たち」・・・。
少年誌での長期連載が主な場でしたので、50年以上のキャリアにしては作品数は意外と少ないのですが、
長編、短編とも見事に作りこまれた珠玉の名作群。

そんな大好きなちばてつやですが、原画展は初めてでしたが本当に良かった。

初期の少女漫画期の原画からして圧倒的に素晴らしい。
漫画原稿は印刷するための素材に過ぎないという見かたもありますが、
原画、特にカラーの原画はやはり印刷物では表現しきれないものすごい力があります。
まあそれにしてもその絵のうまいのうまくないのって。いいものを見せていただきました。眼福、眼福。



池袋から板橋に帰る途中にある金物屋さん。
素敵でしょ。



コメント (4)
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大友克洋GENGA展

2012年04月20日 | マンガの原画展
楽しいイベントが続々の今週。

今日は、大友克洋GENGAに行ってきました。


会場は3331アーツ千代田。
もともと小学校だった建物をそのまま美術展示用に転用しています。
先についていたRさんがベンチでサンドイッチ食べてます。


入口です。

「大友克洋と私」というタイトルで書きたいこと三日分くらいあるのですが
読みたい人はいなさそうなのでやめておきます。

早く人間国宝にすべきではないかと前々から思っている素晴らしい絵描きさんです。

古いところで30年以上前に読んだ「宇宙パトロールシゲマ」とか「さよならにっぽん」から
最近連載している自転車ロードレース関連のものまで、一斉に壁に飾られた原画の数々は
本当に息を飲むほどの素晴らしさ。もうため息しか出ません。

AKIRA関連のカラー原画も山ほど見られます。
これ、単行本の印刷は私が勤務する会社だったのですが、ちょっとCMYKの印刷では
再現不可能な色があまりに多く、、、というか印刷で出ない色ばかり好んで
使っている感じ。エメラルドグリーン、サーモンピンク、緋色あたり多いです。


「童夢」でチョーさんがエッちゃんの念動力で壁に押し付けられる有名なシーン。
その円形に窪んだ壁(通称ズン壁)を実際に再現して展示しています。ここからやっと写真OKです。


ズン!


ズン!


金田のバイク。車検通っていて、九州から陸路を走って展示会場まで!!


東北の震災への寄付金を募っていて、寄付をした人はこんな記念写真が許されます。
赤い革ジャンで中指立ててる51才のサラリーマン。


周囲には普通に見ている人がいるのでけっこう恥ずかしいです。
でもこの機会を逃したら死んでも死にきれません!

5月いっぱい開催されています。
チケットは日時指定がありますので事前にローソンで買う必要があります。

純粋に絵描きとしても、漫画家としても、デザイナーとしても
日本が生み出した最高の才能の一人です。
人はどれだけ細かくて美しくてカッコいい絵が描けるのか。
見ておいて損はありません。



コメント (2)
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