予想されていたとは言え、ラヴズオンリーユーが、米エクリプス賞で最優秀芝牝馬賞を受賞しました。
この受賞の価値は、先週来、すでにいろんな競馬関係者が述べていますから、もうここでは繰り返しませんが、20世紀の競馬、特に第一次世界大戦後の世界の競馬をリードしてきたのは、間違いなくアメリカの競馬です。現在の世界の血脈を支配しているのも、第一次大戦以降のアメリカで沸騰したスピード血脈。ノーザンダンサー、ネイティブダンサー、ボールドルーラーなどのアメリカ血脈から伸びていったスピード血脈が、今でも世界を席巻している状況。
そのスピード因子の本場で、日本生産馬が米エクリプス賞を受賞したのです。これは、米アカデミー賞で、日本映画が『最優秀作品賞』を獲るのと同じくらいの偉業。今年、『Drive my car』が最優秀作品賞を獲れるかどうかは判りませんが、ノミネートではなく受賞ですから、ラヴズオンリーユーの凄さは本物です。
でもね。もっと凄いのは、矢作芳人調教師だと思います。ラヴズオンリーユーが無敗でオークスを制した時から、「この馬で世界に打って出る」と宣言をしていました。3歳秋は、体調が整わずに秋華賞は出られず、女王杯もラッキーライラックに敗れ、4歳時もリズムを崩して勝利に恵まれませんでしたが、5歳春に京都記念を制したあとは、ドバイ、香港、アメリカ、そして再び香港と、コロナ禍の中、世界中の競馬場で、その強さを如何なく発揮させて、この馬の潜在能力を、世界中のホースメンに向かってアピールする偉業を、有言実行で成し遂げました。
すべては、この矢作芳人の強い意志があっての大偉業です。矢作芳人は、調教師デビュー以来、海外への挑戦意欲が特別に強い人物であります。日本競馬を世界一へ導くためには、チャンレンジする勇気が最も不可欠であることを理解する調教師だからであります。
本来であれば、矢作芳人は、無敗の三冠馬コントレイルで海外に打って出ることを願っていたことでしょう。でも、踝(くるぶし)に爆弾を抱えていたこの馬で、海外にチャンレンジすることは、日本の生産界の事情が許してくれませんでした。
コントレイルの分まで頑張ったラヴズオンリーユーは、本当に凄い牝馬でしたが、それが実現できたのは、矢作芳人調教師の揺るがない意志の強さであります。私は、むしろそれを讃えたいと思っています。
【補足】もう1点。サンデーサイレンスという不世出のアメリカ血脈のおかげで発展できた日本競馬に対して、初めてのブリーダーズカップ勝利にも拘らず、ためらわずに『エクリプス賞』授与を決めたアメリカの懐の広さ。ここにも感服しているところ。同じことを我々日本人は、まだまだ出来ません。