日本調教馬による凱旋門賞制覇の夢は、まだ叶えられていませんが、少なくとも惜しいチャンスは4回ありました。
1回目は、1999年のエルコンドルパサーが2着に敗れた時。この日は馬場が悪かったので、蛯名正義騎手は果敢に逃げ戦法を選択。この結果、エルコンドルパサーは自分のリズムで終始走ることができ、このまま逃げ切りか!というところ、最後にモンジューに差されて惜しい2着に敗れました。この時は、日本の関係者の多くがゴール寸前まで「勝った!」と思っておりました。
2回目は、2006年のディープインパクトが3着入選(レース後失格)に敗れた時。この年は、2005年の凱旋門賞馬にして2006年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを勝ったハリケーンラン、そして前年のBCターフを勝って2006年もGⅠ4連勝中だったシロッコの欧州2強とディープインパクトの対決で盛り上がりました。この2頭に勝つことに専念した武豊騎手は、ラストの直線に入ると、早めに抜け出すハリケーンランとシロッコを、猛然と外から差し切って、そのまま勝利するかと思われましたが、あまりに早めに仕掛けたため、後方で待機していたレイルリンクとプライドにゴール前で交わされ、3着入選という結果になりました。まさに、競馬に勝って、レースに負けたという内容。
3回目は、2012年のオルフェーヴルが2着に敗れた時(1回目)。この年は、直前になって、スノーフェアリーとか、ナサ二エルとか、有力な欧州勢が次々と離脱。質的には手薄なメンバー相手に、オルフェーヴルは最後の直線で他馬を突き放して、そのまま押し切るかに見えた瞬間、何と「内埒に身体をぶつけて失速する」という事態に。その隙を突いて、ソレミアが差し切って優勝。一番大事なところでオルフェーヴルの気の悪さが飛び出して、千載一遇のチャンスを逃したのでした。
4回目は、2013年のオルフェーヴルが2着(2回目)、キズナが4着に敗れた時。この年は名牝トレヴが最初に凱旋門賞に勝った時なので、終わってみれば、オルフェーヴルにも、キズナにも、勝つチャンスはなかったレースだったと言えるかもしれません。ただし、欧州全体のレベルと、日本競馬全体のレベルが、ほぼ拮抗したことを示すレースでしたので、敢えてここにも挙げさせて貰いました。
これらのレースを思い起こしてみると、よく言われている馬場の重さ云々は、確かに大きな要因ではあるものの、決定的な不利要因ではありませんでした。それよりも、レースにおいて、日本馬がリズムを壊すか否かの方が大きな敗因になっていると思います。
1998年のエルコンドルパサーの好走は、何といっても、思い切った逃げ戦法に出たこと。これにより、エルコンドルパサーは、自らの走りのリズムを失わず、最後まで自分の力を出せたと思います。
一方のディープインパクト。そのあまりの強さのため、当日の凱旋門賞は厳選されたメンバーだけの少頭数のレースとなりました。結果として、逃げ馬がいなかったため、前半が超スロー。ディープインパクトは何と2番手3番手を進むという展開となり、いつもの走りのリズムを失うこととなりました。
2012年のオルフェーヴルは、多頭数のレースで、ラビットと呼ばれるペースメイカーが存在したため、流れるレースの中で、好位でリズム良く走れる結果に。直線に入ると、オルフェーヴル独特の躍動的な差し脚で、前に居る馬たちを置き去りに。しかし、あまりに早めに1頭で抜け出したため、気が散ってしまったのか、内埒の板を目掛けて突進するという狂気がほとばしる事態に。
総括すると、日本調教馬には、ラビット=ペースメイカーが必要だと思います。ディープインパクトのレースにペースメイカーがいれば、楽勝だったと思います。
ちなみに今年は、現役最強と呼ばれるタイトルホルダー、昨年の雪辱を狙うディープボンド、ダービーレコード勝利のドウデュース、サウジとドバイで活躍のステイフーリッシュなど、多彩な顔触れが参加予定になっていますが、鍵を握るのは、矢作厩舎のパンサラッサの存在だと思います。
もちろん、タイトルホルダーも、自らレースを作れる強みを持っていますが、タイトルホルダーが逃げるとなると、当然ながら欧州勢から厳しいマークに遭います。しかし、もしその前に、パンサラッサがハイスピードで逃げることを選択すれば、日本馬にとっては、いつもの日本的なレース展開となるのに対して、一方の欧州勢にとっては、いつもと異なる=リズムを壊す、ことに繋がります。
パンサラッサは、札幌記念のあとの体調面を見ながら、参戦するか否かを判断するようですが、出来れば是非出走してもらって、ペースメイカーの役割を担ってくれないかと期待しています。
タイトルホルダーの生産者 岡田牧雄氏も言っているとおり、今年こそ、「凱旋門賞の呪縛」から、日本競馬が解放される年であってほしいと思います。