金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【春のベースアップで満額回答が続く!】 そもそも日本で賃金が上がらなかった2つの理由は?

2024-03-19 02:07:17 | 金融マーケット

 

 春闘のベースアップ交渉が山場を迎えており、日本を代表する企業の多くが、組合側の要求に満額で応える報道が毎日なされています。こうした姿勢が、日本の中堅中小企業にも伝播するように、新聞各紙も競うように伝えております。

 

 そもそも、日本の賃金が上昇しなくなった理由は、まず第1に「バブル崩壊後の1990年代の後半から極度のデフレ経済に陥った」から。

 90年代にはじまる暗黒の30年間、良質のサービスや財を提供しても、価格が高ければ消費者から需要が生まれず、結果的に市場から退場せざるをえない状況が続いたため、「良いものをより安く」という合言葉のもと、せっかく生み出した「付加価値」を「価格に転嫁する」ことが出来なくなりました。そして、それが「定常化」してしまい、2020年頃まで「付加価値を価格転嫁できない」風潮が続きました。結果、コストアップ要因となる賃上げなどは「とんでもない!」ということになっておりました。

 

 それから、第2に理由として「新商品・新サービスを生み出す人材の価値ばかりを過度に評価して、日常業務を担う人材の評価を長期間据え置いた」から。

 一部の企業では、前者を「α人材」「α業務」、後者を「β人材」「β業務」と区別して、「α人材」「α業務」の給与・年収だけを上昇させ、「β人材」「β業務」の処遇を長期にわたって据え置いてきました。いかにも、1990年代以降の北米で流行った考え方なのですが、ここへきて、過度な区別をつけたことが大きな問題になりつつあります。

 「β人材」「β業務」といっても、例えばホテル旅館における「接客担当者」や、運送業における「ドライバー」にあたる方々がその典型でありますが、優秀な接客担当やドライバーは、最低でも5年から10年程度の経験がなければ、良いパフォーマンスを出せるようにはなりませんので、育成に時間がかかる職業です。

 こうした人材が世間に溢れている時代は、それでも「替え」が効きますから、雇用者側に有利な環境となり「β人材」「β業務」などと区分けすることができましたが、ここへきて労働人口が急減少、しかも今まで頼っていたベテランの接客担当者やドライバーが高齢化によって仕事から離れるようになると、もう人材の採り合いが激しくなって、賃金の急上昇が発生している訳であります。

 現在の北米市場で、賃金上昇が止まらない事情はまさにこれ。コロナ禍が収まって観光業が復活してきた現在、ホテルやレストランでの頼りになる接客担当が不足しているのです。給与を倍にしても人が集まらない!

 今年の春闘で、日本を代表する企業が競い合うように満額回答を行っているのも、背景には「絶対的な人材不足」、しかも「日常業務を真面目にこなしてくれる人材の絶対的な不足」があります。

 

 米国大統領選で、あのトランプ氏に人気が集まっている理由も、ここに繋がります。1950年代から80年代にかけて、アメリカのために真面目に働いて、時には命をかけて戦ってきた古き良きアメリカ人たちの生活が、1990年代を境に改善されなくなっていきましたまさに極端な「α人材」「α業務」優先と「β人材」「β業務」軽視の風潮です。

 その結果、米国大統領選にいつも出てくるようなエリート候補者については「我らの不満や苦しみに対して一瞥もしてくれない」と見限ってしまい、変人で下品な候補だと分かっていながらトランプ氏だけが「我らの不満を受け止めてくれる」と支持しているのです。

 

 行き過ぎた「β人材」「β業務」軽視の風潮が、民主主義そのものを揺るがし始めています。日本があらためてベースアップに目覚めた背景には、このような事情があります。

 

 したがって、真面目にこつこつ働くのが身上という皆さま!

 今はもっと強気で要求して良いのであります。

 ここまで過度に軽視されてきたわけですから、ここで大きく取り返して参りましょう!

 

 


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