本日、快晴。

映画中心雑記。後ろ向きなポジティブが売りです。

駆込み女と駆出し男【映画】

2015年06月23日 | 【映画】


@新宿ピカデリー

やはり作品の特色上、レイトショーの上映回数が少なく、
外出直帰の日に狙って観てきました。良かった、観ておいて。
私、すごく好きな映画でした。

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江戸時代、幕府公認の縁切寺として名高い尼寺の東慶寺には、
複雑な事情を抱えた女たちが離縁を求め駆け込んできた。
女たちの聞き取り調査を行う御用宿・柏屋に居候する
戯作者志望の医者見習い・信次郎(大泉洋)は、
さまざまなトラブルに巻き込まれながらも
男女のもめ事を解決に向けて導き、
訳あり女たちの人生の再出発を後押ししていくが……。
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物語は、江戸時代、まだまだ男尊女卑が強く、
女性が自ら離婚を選ぶことを許されなかった時代のお話。
女性上位と言われる現代においては、逆に興味深いですが、
日本で生きていれば何となく予想できる慣習ではあります。

井上ひさし氏の(完結した)遺作ということですが、
正直、私は彼の作品を読んだことはありません。
ただ彼の戯曲は、現代に至るまで繰り返し上演されているのでいくつか知ってはいます。
なので比較はできない前提で書きますね。

本作は、一見時代劇ですが、現代風にアレンジされた戯曲、という印象が強いです
冒頭の会話シーンさえ乗り切ってしまえば、非常に見やすくなっています。
(冒頭シーンは、ちょっと分かりにくいんですよね、商人の会話とか。)

加えて、当て書きされたかの如くハマリ役だった主人公・信次郎こと大泉洋が
口上が素晴らしく、軽快な語り口で観客を引き込んでいます。
私は、今まで見た大泉洋の役の中で、一番合っている気がしました。

本作では、離婚(この時代は「離縁」と言います。)したい女性3人が
メインのエピソードを構成しています。
1人目は、製鉄工のじょご(戸田恵梨香)。
2人目は、商人の妾のお吟(満島ひかり)。
3人目は、女侍のゆう(内山理名)。
三者三様ではありますが、時を同じくして駆込んだ女性達
それぞれの魅力や強さにとても心打たれ、
誰一人として不幸になってほしくないと感じるのは、
やはり私が女性だからかもしれません。

しかしながら、長い上映時間にも気が削がれることなく、心から感情移入して、
お吟の「私の妹。べったべった、だんだん。」(文字に起こすと意味不明ですね。笑)のシーンでは
号泣出来てしまうくらいには、良作だと個人的には思います。

予告編ではどちらかというと、軽快なコメディの印象がありましたが、
本編は、コメディ要素とシリアス要素のバランスが非常に良く、
『笑って泣ける』という謳い文句は、伊達ではないです。

加えて。
本作、一応ラブストーリーでもあるんですよ。
これも予告編では予想できなかったけど、
観ているうちにそれもものすごく自然に観客の感情に入って来るし、
煩わしくなく、且つ本題の邪魔をしないんです。
構成が巧いんでしょうね。井上ひさし、恐るべし。

それと演出について。
情緒重視で各シーンに余韻を残す作品が目立つ中、
本作は、結構ブツ切りで、全体的にあっさりとした描写になっています。
芝居がかった演者がいると、鬱陶しくなってしまいがちなところを、
演出の軽快さで、作品そのものの重さを減らしているというか。
この要素は、一般的な時代劇と大きく異なる点だと思いますし、
好みによりますが、私はこういう作品も見やすくて大好きです。

余談ですが。
こういった、時代物邦画というジャンルにおいて、
やはり松竹は強い、という印象です。
東宝や東映、日活、と、大きな映画会社はいくつかありますが、
良質な邦画として、こういうジャンルはずっと残してほしいなあ、と改めて実感しました。
私はとても好きでした、本作。

ちなみに前述していますが、素晴らしいハマリ役の大泉洋然り、
メイン女優3人に加えて、脇を固める俳優陣も、全員漏れなく素晴らしいです。
"イケメン若手俳優"と称されて括られている層を本作では1人も起用していませんが、
それが功を奏した、というか。
個人的には、やはり満島ひかりが最高ですが、
デビュー当時のアイドル女優感の強かった戸田恵梨香も、いまや絶妙な存在感。
あとは、言わずもがなの樹木希林に山崎努ね。
それと、個人的に大好きだったのが、法秀尼役の陽月華さん。
法秀尼様のシーンは全部好き、というくらい、一気にファンになりました。

良かったことが多すぎてまとめきれないのですが最後に1つだけ。

ちょっとだけネタバレですが、
信次郎こと大泉洋が、刀を持って乗り込んできたヤクザものを
機転の利かせて、追い払うシーンがあります。
本人は必死なあのシーンは、可笑しくて且つ最高に小気味良いのですが、
『ペンは剣よりも強し』とは良く言ったものだなあ、と。
戯作(げさく、て読むんですね。)者を目指す信次郎に、
戯作者としての自身を投影したシーンとして、とても感慨深い。


強味(きつみ)と渋みが、ちょんぼし(少し)でも、
素晴らしい男は、いるものですよね。

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鑑賞後のロビーにて。

ギャルA「何か散漫だったよね~。」
ギャルB「すごく泣けた~って言ってる人いたよ。」
ギャルA・B「無いわ~(笑)。」

劇場から出て来た熟女「・・・(ハンカチで涙を拭っている)。」


私は断然、後者寄りでした。
年齢か。年齢なのか。