もうひとつだけ
僕も白血病や悪性リンパ腫などの疾患と患者と一緒に戦う医師(いまは臨床現場にいませんけど)のつもりですが、若い患者さんはやはり抗癌剤治療によって子供を作る能力(生殖能力)に影響が出ることもあります。
もちろん、抗癌剤の組み合わせ、種類によっては大きく影響を受けないものもあります。全例ではないですけど、CHOPやABVDは女性の生殖能力に大きく影響しないといわれます(卵子はあまり分裂しない。大量だとダメージは受けますが。ただし、精子は分裂能力が高い:よく増えているのでダメージは大きい)。男性はよく精子保存をするのですが、卵子保存はあまりおこなわれていません。
一度、若年女性の移植の時にそういう話もしたことがあるのですが、あの時は必要ないといわれました。
ただ、この話はいろいろな意味で素晴らしい話だと思いましたので、紹介させていただきます。
がん克服後、冷凍保存卵子で妊娠 国内2例目、経過は順調
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120309142723876
国内の民間不妊治療施設でつくる「A−PART日本支部」は8日、がん治療で卵子ができなくなる恐れのあった女性(35)が、事前に冷凍保存しておいた卵子を使ってがん克服後に妊娠したと発表した。同様の治療では国内2例目という。6日時点で妊娠9週目、経過は順調としている。
卵子を保存した「加藤レディスクリニック」(東京都新宿区)によると、女性は血液のがんである「悪性リンパ腫」を乗り越えて妊娠。冷凍保存の卵子でがん治療経験者が妊娠したのは、2011年に大阪府で無事出産した例があるという。
女性は悪性リンパ腫の抗がん剤治療中の07年3月、治療により卵子ができなくなる恐れがあったため、未受精卵子7個を採取。病気を克服した後に結婚し、11年8月から保存していた卵子を使った体外受精による不妊治療を始めていた。
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抗がん剤前に卵子を凍結保存、治療後に妊娠成功
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120309-OYT1T00081.htm
悪性リンパ腫にかかった女性が、抗がん剤治療前に凍結保存した卵子によって妊娠することに成功したと、8日、加藤レディスクリニック(東京都)が発表した。
治療の影響で不妊になり、妊娠をあきらめざるを得なかったがん患者への朗報となりそうだ。
女性(35)は2006年、未婚の時に血液がんの一種の悪性リンパ腫と診断された。妊娠の可能性を残すために、翌年3月、卵子7個を同クリニックで凍結保存した。
半年間の抗がん剤治療で悪性リンパ腫は良くなり、10年5月に結婚。自然妊娠は難しいとわかり、11年8月、凍結していた卵子3個と夫の精子の顕微授精を行った。1度目は流産したが、2度目の受精卵移植は妊娠が継続、現在9週に入り経過は順調という。
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僕が担当していた悪性リンパ腫の患者さんも、R-CHOP療法後に妊娠されたひとがいます。女性が、いや結婚した夫婦に子供ができるというのは素晴らしい話だと思います。
悪性リンパ腫の治療後、再発の危険を考えてきっと5年間待たれたのでしょうね。そして結婚して・・・。素晴らしい話だと思います。
そこまで待たれたこともふくめて、よく考えられての決断だと思いますし、きっとお子さんが生まれてくれば(すいません、まだ9週と書かれているので)いい家庭でよいお子さんに育つと信じています。
ただ、この記事で少し心配なのは「若年女性」の腫瘍の中で乳癌・子宮頸がんなどがあります。特に乳癌はホルモン療法なども行う可能性があり、その場合は難しいのかもしれません。妊娠の維持にはエストロゲンが必要なので、まさに諸刃の剣になるかもしれません。
しかし、女性に、多くの夫婦に子供を持つ可能性を残す治療法というだけで、素晴らしいことだと思いました。可能性を残す、少なくとも不利益は患者さんたちにはないはずですから。
国内2例目ということですが、多くの人が利益を享受できますように。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。