観自在

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クアトロ・ラガッツィ

2015-06-03 20:12:15 | 読書
『クアトロ・ラガッツィ ~天正少年使節と世界帝国』 若桑みどり

 上下巻合わせると1000ページを超える大作ですが、最後まで面白く読めました。
 16世紀の大航海時代、来日したイエズス会の宣教師ヴァリニャーノは、日本人に高い知性を感じ、日本を世界にアピールするため、キリシタン大名たちに日本信徒のヨーロッパ派遣を提案します。そして選ばれたのが、天正少年使節の4少年(クアトロ・ラガッツィ)でした。
 上巻はキリスト教の東洋への布教から始まり、布教の拡大の様子が丹念に描かれ、下巻では、天正少年使節の渡欧の苦難や現地での大歓迎、帰国後の数奇な運命が、やはり詳しく描かれています。
 私はこの大著を読むにあたり、プロローグに感激しました。このプロローグがなかったら、私は1000ページにおよぶ本書を読み通せなかったかもしれません。書物におけるプロローグの意義をこれほど感じたことはありませんでした。
 プロローグは次の一文で始まります。

 「なぜ今、そしてどうして私が、400年以上も前の天正少年使節の話など書くのだろう」

 遠い過去のことを研究して何になるのか、それは誰にでも共通する虚無感でしょう。しかし、筆者は少しずつ過去を現代へと手繰り寄せていきます。
 「彼らは、16世紀の世界地図をまたぎ、東西の歴史をゆり動かすすべての土地をその足で踏み、すべての人間を、その目で見、その声を聞いたのである! そのとき日本人がどれほど世界の人々とともにあったかということを彼らの物語は私たちに教えてくれる。そして、その後、日本が世界からどれほど隔てられてしまったかも」
 大学を退官した後、世界情勢の大転換を予感しつつ強い意志をもって歴史を描こうとします。
 「しかし、そのときには、少年使節をめぐる世界の物語はただの回顧ではなくなっていた。21世紀の最初の1年は、平和な世紀を予告しはしなかった。それどころか、異なった宗教、異なった言語、異なった文化の間で、今や地球を破壊しかねない戦争が起こったのである。
 この世紀は、16世紀に始まる、世界を支配する欧米の強大な力と、これと拮抗する異なった宗教と文化の拮抗が最終局面を迎える世紀になるだろう。人類は異なった文化の間の平和共存の叡知を見いだすことができるだろうか。それとも争い続けるのだろうか? それこそはこの本の真のテーマなのである」
この著作の第1稿が完成したのはアメリカ同時多発テロの1年後だったといいます。7年間、筆者は資料を調べ、執筆に費やしたのでした。
 エピローグでは、一人一人の人物について調べ、人間像がはっきりとつかめてから書いたそうです。壮大な世界史の中の有名人からそうでない人たちまで、実に生き生きと描かれているのはそうした苦労の賜物でしょう。そして、その個人が、壮大な世界史のうねりの中で、どのように生きたかが関連付けて描かれているから素晴らしいのです。 
 筆者は既に故人になってしまいました。素晴らしい作品を残してくれた筆者の冥福をお祈りします。