医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

異端カタリ派の美風6

2007年03月07日 09時01分08秒 | Weblog
 カルカソンヌを舞台にした聖杯伝説とカタリ派が主題の、小説「ラビリンス」もお薦めです。

 作者は女流作家のケイト・モス、主人公も王に使える貴族の娘であり、女性が書く女性がヒロインの物語です。

 この小説では、カタリ派の聖杯が何か最後に分かるようになっております。

 ではどうして中世の主人公と、もう一人の主人公である現代の女性との間に、霊的な共有概念が生じるかは、カタリ派の信仰していた「輪廻」の概念を理解していないと、ただの超常現象になってしまい、物語そのものがとたんにうそ臭くなってしまいます。

 まあ、小説というものはそもそも大嘘であっていいと思っております・・・ただしその大嘘がいかに現実っぽく作れるかが作者の腕の見せ所であり、おうおうにして日本人はこの途方もない大風呂敷を広げるのが苦手のようです。

 そしてレンヌ・ル・シャトーは、そのカルカソンヌから南へ40キロ。

 蛇足ながら、百年戦争あたりのイギリスとフランスの関係も微妙であり、フランスのノルマンディー公○○がイギリス王だったり、イギリス王がフランス王を名乗ったり、イギリス王ジェームス○世がスコットランド王としてはジェームス○世だとか、それがシェークスピアの「マクベス」では重要な背景だったりもして、それにしても複雑でわけがわかりません。

 そうそう、以前ゴシックについて書いたときに、教会建築に触れ、それまでのロマネスクによる半円からゴシックの尖塔アーチについて述べましたが、イギリスでの教会建築をテーマに、修道士と石工と、やはり伯爵の娘で主人公といってもよい女性が活躍するケン・フォレットの「大聖堂」-SB文庫-も上中下巻と読みごたえがあります。

 中世からゴシックの頃、ヨーロッパがいかに教会と修道士が街の中心となり、人々の生活に密着していたか、修道士の質によって街の運命が変わってしまうのかが生き生きと描かれております。

 結婚にも、お葬式も、トラブルの解決も、裁判も、悪人の隔離も、学校も、貧困救済も、経済も、街の反映にも、軍を持たない徳の高い聖職者が積極的にかかわっていきます。

 ですから、人々も司教を尊敬し、教会に集まってくるのです。

 日本の住職の方々にもぜひとも読んでもらいたいと思います。

 残念なのが、ラストが尻すぼみで、悪役の逮捕の模様や、フィリップ司教のその後などが、はしょられてしまいました。

 長編にありがちなパターンです。

 まあ、物語そのものはたわいもないんですけど、夢のある大風呂敷は広げてくれます。

 クリスチャン・ジャックのエジプトシリーズをちょっと生々しくした感じ。

 ですが、ゴシック建築のさきがけとなり、フライングバットレスを持たない尖塔アーチ様式の、フランス歴代王族の霊廟となる、フランスのサン・ドニ教会の建築なども出てきて、興味深いものはあります。