【EXPO×経済】:「医療ビジネス」種まく好機に…拍動する「iPS心臓」展示、AIによる疾病リスク予測
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【EXPO×経済】:「医療ビジネス」種まく好機に…拍動する「iPS心臓」展示、AIによる疾病リスク予測
「X国より緊急手術の要請あり。直ちに現地に急行せよ」

21××年。要請を受けたオペレーションセンターの指示で、空を飛ぶ機能を備えた手術室「フライングオペレーションユニット」が出動。現場で患者を収容すると、センターにいる医師が遠隔操作で1ミリに満たない自走式ロボットを血管内に送り込み、患部をレーザーで治療する――。
医療機器大手の朝日インテック(愛知県瀬戸市)が、大阪・関西万博のパソナグループのパビリオンで披露する映像の一場面だ。山間部や離島に手術室を丸ごと運び、誰もが高度な治療を受けられる未来の医療の姿を描く。
自走式ロボットは、血管内に細い管を入れるカテーテル治療が元になっている。身体を切る手術よりも患者の負担は小さいが、カテーテルを導くガイドワイヤをうまく操る必要があり、医師の経験や技量によるところが大きい。
カテーテルの開発を担当する中川雄太(38)は「医師の負担が減らない限り、救える患者の数は増えない。技術の力で医師の負担を減らす未来を示した」と解説する。
朝日インテックはガイドワイヤに強みを持ち、半分を握る世界シェア(市場占有率)をさらに高めたい考えだ。会長の宮田昌彦(58)は「カテーテル治療は今後、新興国でも普及していくだろう。常に技術を進化させていく姿勢を世界に示したい」と意気込む。
◆データ活用
医学の進歩は人類の平均寿命を延ばし、社会や経済の発展を支えてきた。高度な治療を可能にする医療機器は、最先端の技術が一堂に会する万博の目玉でもあった。
1851年にロンドンで開かれた最初の万博には、義手や義足、医療用のノコギリが出品されたと伝わる。1900年のパリ万博ではレントゲン装置が披露されたという。

大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げており、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った「動く心臓」を筆頭に、医療や健康に関連する技術が数多く展示される。
万博を機に、この分野に参入を目指す動きも出てきた。

JR西日本は3月、全身の健康データを測る「カラダ測定ポッド」を大阪や天王寺など4駅に設置した。中に入ってポッドの指示に応えていくと、肌や髪、心血管など7項目の健康状態が測定され、「健康度」を示してくれる。
様々な機器を組み合わせて運転台を作るノウハウを生かし、センシングや画像解析といった10社の技術を一つの装置に組み上げた。万博では「大阪ヘルスケアパビリオン」の体験展示に使われる。
駅への設置は万博の機運醸成のためだが、新たなビジネスの種をまく狙いもある。担当の武田善憲(49)は「将来、データを蓄積して健康管理に役立てる事業を検討したい。駅を活用すれば、駅そのものの価値も高められる」と話す。
◆「レガシー」
世界的に高齢化が進む中、医療と健康関連の産業は成長が期待される分野だ。政府は介護を含む国内のヘルスケア産業の市場規模を、2050年に20年の3・1倍の77兆円に拡大する目標を掲げる。
関西には、神戸市の「神戸医療産業都市」や最先端医療の産業化を進める大阪市の「中之島クロス」といった拠点が集積している。ヘルスケア産業の成長を取り込み、地域経済の底上げにつなげたいとの期待は大きい。
今回の万博の「レガシー(遺産)」として、新たな構想も浮上している。大阪府と大阪市が2月に公表した会場跡地開発の基本計画案には、医療関連の施設を整備することも盛り込まれた。先端医療の研究や訪日客の診療を行うことなどを想定しているという。

日本総合研究所関西経済研究センター所長の藤山光雄(46)は「高齢化の先頭を走る日本のノウハウは世界に通用する。ただ、海外に展開していくには、各国の研究機関や企業と結びつきを強め、ビジネス化を進める必要がある。万博で実現できれば、それこそがレガシーとなるだろう」と指摘する。(敬称略)
元稿:讀賣新聞社 主要ニュース 社会 【話題・大阪・関西万博】 2025年04月11日 11:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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