【卓上四季】:被疑者不詳
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:被疑者不詳
戦後一貫して沖縄に存在する米軍基地は、沖縄の人々に先の大戦の記憶を思い起こさせる▼その一例が1970年に起きた米兵による糸満主婦轢殺(れきさつ)事件である。「糸満町の街路上に轢殺されて横たわる屍(しかばね)は、沖縄戦の残虐性を想起させる」。戦時中にひめゆり学徒隊を引率し、戦後にひめゆり平和祈念資料館長を務めた故仲宗根政善(せいぜん)さんが日記に残した一文だ▼琉球大などで非常勤講師を務める北上田源(きたうえだげん)さんが、今年6月に刊行された「沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ」(吉川弘文館)の中に記している▼この事典は県内在住の三、四十代が中心になって編んだ。沖縄戦の体験者が声を上げざるを得ない状況は今も続く。その体験を「自分ごと」として考え、語り継いでいく。そんな日々の活動が「民主主義を否定する強大な暴力に抗(あらが)う原動力になる」と訴える▼沖縄戦と向き合うほど国内の米軍専用施設の7割が集中する理不尽さに気付かされる。その過酷な実態がまたも露呈した。2016年12月に米軍普天間飛行場所属のオスプレイが名護市沿岸で不時着、大破した事故は先週、被疑者不詳のまま書類送検された。捜査を阻んだのは日米地位協定だ▼米軍機事故について協定に基づく指針が7月に改定されたが、日本側が現場に入るのに米側の同意が必要なのは変わらない。いつまで無力でいるのか。もう小手先の対応など要らない。2019・9・30
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2019年09月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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