《社説②・11.29》:女川原発控訴審 避難の不安顧みない判決
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.29》:女川原発控訴審 避難の不安顧みない判決
この計画で住民の安全は確保できるのか。
東北電力女川(おながわ)原発で重大事故が起きたときの避難計画に不備があるとして、半径30キロ圏内の石巻市民16人が運転差し止めを求めた訴訟の控訴審判決である。仙台高裁は、請求を棄却した一審判決を支持し、訴えを退けた。
一審に続き争点になったのは、避難計画の実効性だ。指示に従って地域ごとに決められたルートで移動し、途中の検査所で被ばく状況を調べて半径30キロ圏外の避難所に逃げる計画である。
原告は、ひとたび重大事故となれば道路渋滞などが起き、検査所を開設できなかったり、避難バスを確保できなかったりといった事態がありうると指摘。その間に放射線を浴び、身体に深刻な被害を受けかねないと訴えた。
女川原発があるのは太平洋に突き出した牡鹿(おしか)半島だ。入り組んだ海岸沿いや離島に集落が散在し、避難するのに原発近くを通らねばならない地区もある。
いざというとき、住民が計画通りに動けるとは限らない。地震で崖崩れが起き、避難路が寸断されるかもしれない。船での避難を想定する地区もあるが、大しけだったらどうするのか―。
東京電力福島第1原発事故、今年元日の能登半島地震の混乱を思い起こせば、原告がこうした懸念を持つのはもっともだ。
これに対して高裁判決は、計画は「発生した事態に応じて臨機応変に決定し、段階的に避難を実施する」との前提に立っており、原子力規制委員会などの指示に基づいて実行される、と指摘。看過しがたい誤りや欠陥があるとはいえないと判断した。
計画の実効性について「判断するまでもない」と一蹴した一審判決よりは踏み込んだ。一方で、「いかなる事故にも完全に対応できる地域防災の策定は求められていない」とし、対処できない事態があるなら原告が根拠を立証すべきだとした。住民にとってはあまりに高いハードルである。
東日本大震災で被災した女川原発はこの10月に再稼働し、12月中の営業運転再開を予定している。地元には受け入れる声もある。だとしても、避難計画が住民の安全を守る「最後の砦(とりで)」であることは論をまたない。
具体的な安全策を示す責任は、計画を立案した行政や原発を動かす電力会社、再稼働を認めた国にある。それすら求めず、住民の懸念を置き去りにした司法の判断は大いに疑問だ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月29日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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