兵庫県の斎藤元彦知事によるパワハラ疑惑が大問題になっています。
疑惑の発端になったのは、県幹部が県議や報道機関に対して行った内部告発。
しかし、知事を糾弾した告発者は県によって追い詰められ、最後は自死する事態になってしまいました。
その経緯を紐解くと、今の日本社会の闇が垣間見えます。
蹂躙された内部告発、兵庫県庁で何が起きているのか?
◆踏みにじられた内部告発
「斎藤知事のおねだり体質は県庁内でも有名」
「知事のパワハラは職員の限界を超え、あちこちから悲鳴が聞こえてくる」
3月中旬、兵庫県の斎藤知事による様々な疑惑が記された4ページにわたる告発文書が、兵庫県の県議会議員やマスメディアに流されました。
告発文書には名前が記されておらず、告発は匿名で行われたのですが、県が内部調査を行い、県幹部である西播磨県民局長の男性が作成したものだと判明。
斎藤知事は3月27日の記者会見で、告発について「嘘八百」だと断定しました。
さらに、兵庫県は男性の役職を解任し、その後の調査から告発は「核心的な部分が事実でない」ため「誹謗中傷」に当たると判断、停職3カ月の懲戒処分としました。
この調査や判断に納得がいかない県議会は、自治体の疑惑や不祥事について調べる「百条委員会」を設置。
この委員会には関係者の出頭や証言、証拠の提出などを求めることができる強い権限があり、現在進行形で調査が進められています。
しかし、7月7日に告発者の男性が自死。
彼のもとには告発を裏付ける陳述書や証拠音声とともに、「死をもって抗議する」という趣旨のメッセージが残されていたと報じられています。
◆次々と明らかになる「真実」
このように、告発された知事や県庁からは事実無根だと突っぱねられた告発ですが、その後に真実が多く含まれて いたということが明らかになっています。
まず、斎藤知事によるパワハラ疑惑。
告発文書では「出張先の施設のエントランスが自動車進入禁止のため、20m程手前で公用車を降りて歩かされただけで、出迎えた職員・関係者を怒鳴り散らし」た、という具体的な内容が指摘されていますが、こちらについては多くの職員が「事実だ」と証言し、斎藤知事自身も「厳しい口調で注意をした」と認めています。
知事は「時間が限られる中での移動で、不適切な段取りだったため注意した」と釈明していますが、エントランスまで車で乗り入れられない場合に少し歩くくらいは当たり前で、あまりにも理不尽な叱責だと言えるでしょう。
また、知事の「おねだり体質」について内部文書では、県内企業を視察した後に高級コーヒーメーカーが贈呈され、当初はマスコミが周囲にいたため「そんな品物は頂けません」と固辞したが、その後に部下に向かって「みんなが見ている場所で受け取れるはずないやろ。失礼な。ちゃんと秘書課に送るように言っておけ」と指示し、最終的にコーヒーメーカーを受け取っていたと指摘されています。
これについては、県による内部調査の段階から、産業労働部長が実際にコーヒーメーカーを受け取って県庁に保管していたことが明らかになっていますが、部長は「PR目的で知事からの指示はなかった」として、結局のところ知事はお咎めなしとなっています。
しかし、そのほかにも、知事が地域づくりの会議の場で、関係者に県内産のワインについて「まだ私は飲んでいないので、ぜひまた」とおねだりし、その後にワインが県庁を通じて知事のもとに届いていたことが発覚。
関連するビデオ: 兵庫県知事“おねだり疑惑”めぐり…県幹部が警察から事情聴取 (テレ朝news)
知事は「魅力を伝えるために仕事として飲んだ」と釈明していますが、そのワインのPRは「具体的にはしていない」と発言していて、その正当性については疑問が残る内容となっています。
◆「パワハラ」「おねだり」以上に問題であること
「パワハラ」と「おねだり」、どちらも事実であれば問題になる出来事ではありますが、きちんと最初から事実関係を認め、頭を下げていればここまで大問題にはならなかったようにも思います。
「パワハラ」については暴力を振るっていたり、叱責でも「馬鹿」「死ね」などの誹謗中傷が含まれていて、かつ、その証拠となる音声や証言があったりする場合は辞職ものとなりますが、そこまででなければ謝罪で済む場合もあります。
また、ワインなどの「おねだり」については、PRとして県庁に渡されたものを知事が私的飲食に流用していたということになれば、厳密には業務上横領罪などに該当する可能性もありますが、こちらもきちんと謝っていれば、それで済んでいた可能性は高いです。
ちなみに、私は新聞記者時代に宮崎支局に勤務し、宮崎市や宮崎県の行政取材、また政治部に異動して総理大臣取材などを経験しましたが、政治家にPRとして農産品などが贈呈されるのはよくある話ではあります。
その際、関係者を招いてマスコミを呼び、カメラの前で農産品を食べるというセレモニーを行うこともあるのですが、これは、メディアに取材してもらうことで、「PRをした」という口実になる側面もあるわけです。
皆さんも、総理大臣がカメラの前で食べ物に舌鼓を打つようなニュースを見たことがあるのではないかと思います。
実際にそのニュースがどのくらいのPR効果を持つかはさておき、斎藤知事もそのように対応すれば問題はなかったのです。
なお、今回の告発では他にも公職選挙法違反が疑われるような事例なども指摘されているのですが、これらについてもきちんとした説明を行い、何が真実で何が真実でないかを明らかにしていれば、現在のような状況に陥らずに済んでいたのではないでしょうか。
それ以上に問題なのは、告発について真実が含まれていたにも関わらず、最初から「嘘八百」と糾弾し、告発者を特定して処分し、自死にまで追いやったことにあります。
告発者が自死に追い込まれた今回の事案ですが、日本には公益通報者保護法というものがあり、告発者が不利益を受けないように保護するよう定められています。
様々な自治体や行政機関、企業で内部告発が弾圧されることになれば、それは組織の自浄作用を阻害することになり、社会が不健全になってしまうため、それを防ぐ法律が作られているということですね。
この法律では、行政機関や報道機関に告発された場合でも、「不正があると信ずるに足りる相当の理由がある」、つまり、証拠などが一定程度あれば保護すべき対象となり、告発者の特定や、降格や減給などの不利益な取扱いは禁止されています。
しかし、今回は県が先に告発内容を事実無根だと決めつけ、公益通報には当たらないとして処分を下しているのです。
どうしてこのような横暴が許されるのでしょうか。
その背景には、この法律にきちんと罰則が設けられていないということがあります。
公益通報者保護法には、通報窓口などの業務に従事している人が情報を漏洩した場合の罰則などは設けられていますが、告発者を保護しなかった組織に対する罰則は定められていません。
そのため、告発された組織側が「嘘」と断じてしまえば、公益通報者保護法は空文化し、内部告発が蹂躙される事態となってしまうのです。
もちろん、告発者が不利益を受けた場合には、裁判を起こして組織と戦うことも出来ますが、あまりにも弱い立場に置かれていると言わざるを得ないでしょう。
ここにこそ、内部告発を巡る、今の日本の闇があるのです。
◆同じ悲劇を二度と繰り返さないために
正義のために告発した人が組織にしっぺ返しを食らい、自死に追い込まれる。
このようなことが繰り返されないためにも、公益通報者保護法を改正し、告発があった場合の第三者的な調査体制、組織が告発者に対して不利益を与えた際の罰則などを整備する必要があります。
「パワハラ」「おねだり」などさまざまなエピソードが飛び交う兵庫県・斎藤知事を巡る事案ですが、その問題の本質は一体何なのか、改めて見つめ直す必要があるでしょう。
◆まとめ
■この記事のまとめ
・兵庫県・斎藤知事のパワハラ疑惑について、知事は「嘘八百」と否定したが、その後に事実を裏付ける様々な内容が明らかになっている。
・「パワハラ」「おねだり」そのものも問題だが、それ以上に告発者を自死に追い込んだ対応に問題がある。
・日本の公益通報者保護法は、告発者に不利益を与えた組織に対する罰則がなく、空文化している側面がある。
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