【社説】:トルコ大統領再選 強権を改め地域に安定を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:トルコ大統領再選 強権を改め地域に安定を
欧州、アジアの結節点に位置する中東の大国の指導者として、国内の融和に努め、国際社会でも建設的な役割を果たしてもらいたい。
物価高や通貨リラの暴落、大地震被害の対応の遅れに批判があり、エルドアン氏にとってはかつてない逆風下での選挙戦だった。
それでも国民は、強権的と国内外で批判が強いエルドアン体制の継続を選択した。先の議会選挙でも与党連合が過半数を維持している。
トルコは10月に建国100年を迎える。国民の大半がイスラム教徒である一方、政教分離の「世俗主義」を国是とする民主国家だ。
ところが、敬虔(けいけん)なイスラム教徒であるエルドアン氏は2003年の首相就任以来、イスラム色の強い政策を打ち出し、反対勢力や言論機関への締め付けを強めた。
接戦だった大統領選を経て反体制派との溝がさらに深まり、権威主義的な政治が一層強まることが心配される。
トルコの政情不安は周辺地域の安定を揺るがすばかりでなく、国際情勢に広く影響を及ぼす恐れがある。
勝利演説でエルドアン氏は「今こそ団結すべき時だ」と国民に呼びかけた。まずは自身が批判されている政治手法を改め、率先して国民の融和に導くべきだ。
エルドアン氏は独特な全方位外交を展開してきた。
北大西洋条約機構(NATO)の一員でありながら、ロシアによるウクライナ侵攻後は米欧主導のロシア経済制裁に加わっていない。
歴史的にロシアとの結びつきが強く、現在もエネルギーを中心に経済依存度が高いことが背景にある。
エルドアン氏は、ロシアのプーチン大統領と直接対話ができる民主主義陣営では数少ない首脳だ。
ロシアとウクライナの仲介役として、国連と共にウクライナ産穀物の輸出合意を実現させた。両国の停戦協議も合意できなかったものの、自国で実施している。
今も両国の仲介に意欲を示す。ぜひロシアに偏らない立場で臨んでもらいたい。
米欧との関係には懸念もある。スウェーデンのNATO加盟を巡り、トルコからの分離独立を主張するクルド系の「テロ容疑者」の引き渡しを求め、加盟国で唯一承認手続きに応じていない。こじれるとNATO結束を脅かす火種になりかねない。
トルコは有数の親日国といわれる。1890年に和歌山県沖でトルコ軍艦が遭難し、地元民が救助したことをきっかけに友好を深めてきた。
培われた信頼を生かし、岸田文雄首相にはトルコの民主主義が後退しないように働きかけを強めてほしい。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2023年06月01日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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