今回の知事選は、自らを告発した文書を巡る斎藤氏の不適切な対応に端を発したものだ。

 斎藤氏は公益通報の調査結果を待たず、告発者を懲戒処分にした。その後、告発者は自死。一連の対応や疑惑への説明が不十分であることから県議会は不信任決議案を全会一致で採択し、斎藤氏が自動失職した経緯がある。

 出直し選挙に挑んだ斎藤氏の、告発問題への対応の是非が問われるはずだった。

 しかし、共同通信社が実施した出口調査で、投票で重視したことに「告発文書問題」と回答した人は9%にとどまった。最多は「政策や公約」の39%で、「人柄やイメージ」が27%と続いた。

 斎藤氏は1期目の行財政改革などの実績をアピール。得票率は前回選挙とほぼ同じ約45%だった。改革を求める民意は重い。

 知事不信任決議後に出直し選で再選したのは2002年の長野県知事選の田中康夫氏以来2例目となる。

 ただ今回、県政の混乱と停滞を招いたのは斎藤氏自身だ。

 県職員の4割が「知事のパワハラを目撃した」とアンケートで回答するなど、知事としての資質への疑いは依然として残っている。

 当選で「みそぎを済ませた」ことにしてはならない。

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 過去最多の7人が立候補し批判票は分散した形だ。

 立候補した「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が「当選する気はない」と公言し、斎藤氏への投票を呼びかけるなど立候補の在り方にも疑問符が付く選挙だった。

 近年の他の選挙と同様、多くの有権者がSNSで情報を得た。

 投票率は55・65%で、前回21年を14・55ポイント上回った。従来投票率が低い傾向にある若者世代をはじめ、票の掘り起こしにSNSが果たした役割は大きい。

 一方、斎藤氏の最大のライバルだった元尼崎市長の稲村和美氏について「稲村氏が当選したら外国人参政権を推進する」との誤情報や、「(斎藤氏は)県議会にはめられた」とする陰謀論も飛び交った。

 デマやフェイクにどう対応するのか。有権者のリテラシーに頼るだけでは足りない。プラットフォームへの働きかけなど取り組みの検証を始める時だ。

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 SNSの熱気は熱気を呼び、分断を深める危険性もある。

 議会への対抗姿勢を鮮明にする斎藤氏の主張は拡散され、街頭演説では支持者らによる「斎藤」コールが湧き起こった。そうした中で亡くなった告発者を非難する発言もあったほか、興奮した観衆同士の小競り合いも散見された。

 斎藤氏は「選挙が終わればオール兵庫だ」としたが、できた溝を埋めることができるのか。SNS選挙の可能性と危うさが表面化した選挙だった。