【社説・08.06】:原爆投下から80年 核依存脱却し廃絶の道を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・08.06】:原爆投下から80年 核依存脱却し廃絶の道を
日本に原爆が投下されてから80年が経過した。広島では14万人、長崎では7万4千人がその年のうちに亡くなった。現在も後遺症に苦しむ被爆者が多い。たった1発の爆弾が生み出したあまりにも膨大な犠牲に、今なお衝撃と憤りを禁じ得ない。
これほど残酷で、非人道的な核兵器は、人類とは決して共存し得ない絶対的な悪である。
だが、世界では核との決別に逆行する動きが加速し、軍拡競争は止まらない。対立と分断の激化で紛争は収まらず、大国が核による威嚇を繰り返す。
今年は、事実上の核保有国同士であるインドとパキスタンの衝突があり、イスラエルの先制攻撃に続いて米国がイランの核施設を空爆した。
日本でも、被爆者が減少する一方で80年前の記憶が風化し、核保有を肯定する国会議員が目立ち始めた。日米両政府が米軍の核兵器使用のシナリオを議論していたことも判明した。
核兵器は二度と使われてはならないという「核のタブー」が崩壊の危機にある。昨年の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞をそうした潮流への歯止めとし、核廃絶に向けた国際協調を早急に確立しなければならない。
■力の行使は危機招く
ロシアはウクライナ侵攻をやめず、北朝鮮はロシアとの軍事連携を強化しつつ核開発を進める。パレスチナ自治区ガザでの戦闘に続き、イランとイスラエルの対立が戦争に発展した。中国の核増強は勢いを増す。
こうした国際情勢の悪化にさらに拍車を掛けているのが「力による平和」を掲げるトランプ米大統領である。
イランへの空爆は明らかに自衛権を逸脱しており、国連安全保障理事会常任理事国の中でロシアに続いて米国までもが国連憲章を犯す武力行使に手を染めたのは、極めて深刻な事態だ。
イランの核開発は憂慮すべき問題だが、明確な証拠があったわけではない。一方、米国はイスラエルの事実上の核保有を黙認し、その攻撃に加担する二重基準も透ける。
倫理や規範に背を向ける大国の言動は、各国による核の増強や拡散に口実を与えかねない。
トランプ氏はイランへの攻撃に関連し「戦争を終結させた」として、広島、長崎への原爆投下も正当化した。言語道断だ。無辜(むこ)の民を無差別に攻撃した原爆投下が国際法違反なのは明らかだ。その事実から決して目を背けてはならない。
■核抑止論と決別せよ
世界の核弾頭数は、冷戦後に一貫して減り続けてきたが、長崎大核兵器廃絶研究センターによると、今年は増加に転じた。
各国が核増強の大義名分としているのが核抑止論だ。相手を上回る反撃を行う意思と能力があると示すことで、攻撃を思いとどまらせる。核兵器の脅威をもって戦力の均衡を保とうとする極めて危うい概念である。
仮に誤情報や誤作動があれば偶発的な核戦争を招くリスクを否定できない。互いの不信感は強まり、際限なく軍拡が進む恐れもある。世界が抑止論から抜け出せなければ、いつまでも緊張緩和の道筋は描けまい。
核軍縮の国際枠組みは崩壊寸前だ。米ロ間で唯一残った新戦略兵器削減条約(新START)も来年期限が切れる。
核拡散防止条約(NPT)も形骸化に歯止めが掛からない。特権的な地位を得た核保有国が軍縮義務を怠り、非保有国は不満を募らせる一方だ。北朝鮮以外にも核保有を目指す国が増えかねない。
力ではなく、対話によって国際秩序を立て直す努力が欠かせない。
■日本は協調の先頭に
その先頭に立つべきは唯一の戦争被爆国日本であるのに、米国の「核の傘」への依存を一段と強めている。
台湾有事を想定した日米の机上演習では自衛隊が米軍に「核の脅し」で中国に対抗するよう求めていたことも分かった。
政府は詳細を明らかにせず、「核の脅し」のやりとりを否定したが、武力による威嚇を禁じた憲法9条に抵触しかねない問題だ。密室の協議で安全保障政策の転換が進むなら主権者たる国民への背信と言うほかない。
被爆者は昨年度末に初めて10万人を下回り、平均年齢は86歳を超えた。今春には北海道被爆者協会が解散した。被爆の実相を若い世代にどう伝えていくかが待ったなしの課題である。
参院選では、当選した参政党の候補が選挙期間中に「核武装が最も安上がり」と発言した。こうした認識が国会議員にまで広がる事態を重く受け止める必要がある。
核は持てば使いたくなる―。そうした為政者の心理を封じる最後の歯止めとなるのが、核の開発から使用、威嚇までを禁じる核兵器禁止条約だ。被団協などの草の根の取り組みが実を結んだ。日本政府はせめてオブザーバー参加を決断すべきだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年08月06日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。