Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「ピアニストのためのコロナ」 : 続・図形楽譜

2021-07-01 08:48:32 | 新音律
きのうの続き : 吉田秀和が引用した Logothetis の文章より*****

従来の記譜法は単一形態思考から発展したもので,唯一の音響像を固定させ保存しようと努力するものだ.この目的は今では録音で高い程度に達成されるのだから,音楽を保存しようと言う楽譜の役目は余計なものになった.私 (Logothetis) は蓋然性の場を記述する新しい音響的記譜,すなわち たくさんの可能性を持った,しかし楽譜との関連から生まれてきた出鱈目ではない音響的出来事が読み取れる記譜に意義を見出す.*****

至極ごもっともではあるが,では図形楽譜を渡され,これを演奏しろと言われたらどうすればいいのか.16トンもこのような経験が何度かある
あのときの演奏者の当惑と,それに続く思考過程などを今になって思い返すときに,この本の吉田の文章がなにかを付け加えてくれるかと期待したが,無駄であった.

その後作曲者も配慮して,演奏のヒントを文章で与えるようになったらしい.
トップ画像は武満徹による「ピアニストのためのコロナ」の図形楽譜.良いタイトルだ !! 

須藤英子氏による解説*****
1962年作曲されたピアノ曲.図形楽譜はグラフィック・デザイナー・杉浦康平との合作.
演奏者は,青・赤・黄・灰・白の5色の正方形を組み合わせ,そこに描かれた幾何学図形を音にする.5色にはそれぞれの意義と時間指定があり,「青=響きの練習、可能な限り遅く,「赤 =イントネーションの練習、2分か4分」,「黄 =アーティキュレーションの練習、可能な限り速く」、「灰=表情の練習、1分か3分か5分」,「白=対話の練習、時間制限なし」.色の組み合わせ方は自由であり,開始地点も終止地点も任意である.演奏者はピアノの他にチェレスタやチェンバロなどの鍵盤楽器を使っても良い.色の意義と幾何学図形をどの ように解釈し表現するか、演奏者の創造性が求められる.*****

動画はその演奏例.



吉田- Logothetis によれば,旧来の楽譜の録音は音楽の「保存」としての絶対的な価値を持つはずだが,この種の図形楽譜の演奏記録からは絶対性は消滅し,楽曲のひとつの演奏例になってしまう.まぁ旧来の楽譜から生まれたとしても,ジャズの名演とされるものは全て演奏例なんだけど...
この「...コロナ」の楽譜は,杉浦康平のおかげで美術品としての評価 (のほう) が高いかも.トップ画像のは88万円だそうだ.

疑問は,作曲家は確固とした音楽をイメージしてからそれを図形化しているのか否か,である.作曲家は実は作曲を放棄し,画家に変身しているのではないだろうか.武満+杉浦の「...コロナ」の制作過程は文献を漁れば見つかりそうではあるが...

16トンが参加した演奏がYoutube に残っていた.お暇な方はひやかしてください.
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 図形楽譜 | トップ | 山下清の放浪日記 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

新音律」カテゴリの最新記事