Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

山下清の放浪日記

2021-07-02 09:17:55 | 新音律
池内紀 編・解説 五月書房(1996/10).
たまに文庫本を買うこともあるが,手にする本は図書館からか,古書.この本も古書.年金生活とはこんなものである.

山下清の絵が好きとは言わないが,言うことはおもしろい,という先入観で,能天気な内容を期待したが,意外と深刻.日本中を乞食して回るのだが,食いっぱぐれるし,裸足で線路を歩けば足は痛いし,駅で泊まろうと寝ていれば追い出されるし,警察にはいじめられるし,いいことはほとんどない.
じっとしていれば食う・寝るには困らないものを...と思うが,じっとしていたら山下清ではなくなっていたのだろう.

魚屋,弁当屋などで使ってくれと言って使ってもらう.これらの店と,学園・お母さんのところを中継地として,そこを逃げ出しては放浪するのが,要領ががいいような悪いような.弁当屋では,米に混じるネズミの糞を炊いてから取り除くのがすごい !! 日光とか富士山とかを目指すのもおかしい.
時代は戦前から戦後へと移るが,それは清にはほとんどが関係なかったようだ.でも,徴兵されることはかなり気にしていた.終戦の記述は数行.
食うや食わずの時代のはずだが,世間はのんびりしていて,乞食・ルンペンに暖かい.

たまに学園に戻ったとき書かされた文章集で,書かないと寝かせてもらえなかったという.「。」がなく,「、」でつながる文章が延々と続くが,それはラジオで聞いたことがある清の口調とのまま.食べ物を貰うために「うそをいってだましました」という文がよく現れる.駅で「きんたま」を出してふざけて手錠をはめられ.精神病院 (清にいわせれば「牢屋」) に放り込まれるが,無事脱出.病院に限らず学園などを逃げ出すときには計画性を発揮する.

現在なら監視カメラですぐ見つかってしまう.清のような人材は出ることはない ? あるいは,異能の人を発掘するシステムは発達しているが,スポイルする速度も早そう.

でもこの本では,絵を描くシーンは1箇所くらい.文章と関係なく挿入されたモノクロの切り絵では,人物はみな直立不動.ユトリロの人物だってにたようなものだけど... カバーのカラー大作はともかく,挿画は冴えない.

シリーズ「池内紀の小さな図書館」の一冊.池内による解説は文学的かもしれないが情報不足.奥付に池内の略歴はあるが,山下清の生年没年などはどこにも書いてない.Wikipedia によれば 1922-1971 でこの古書刊行の20年前に亡くなっていたのだった.
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